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湯原温泉(湯原砂和プロジェクト代表 古林裕久さん)からの手紙「温泉むすめを取り入れた経緯」

岡山県にある湯原温泉で温泉むすめプロジェクトに取り組む「湯原砂和プロジェクト代表」の古林裕久さんからお手紙を頂きました。

1. 多くの問題を抱える地方の小さな温泉地
 皆さんの中で、湯原温泉のことを知っていた方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。湯原温泉へ訪れてくださったことのある方はどれほどいらっしゃるでしょうか。
 さかのぼること数十年前、湯原温泉は「1坪あれば一家4人が暮らせる」と言われるほどに賑わいのある街だったそうです。しかしそれも昔のことであり、今となっては観光客数が右肩下がりであるばかりか、そもそも地域の人口自体がピーク時に比べて半減してしまっています。
 このほかにも湯原温泉は元々、水害や伝染病扱いされたスモン病など様々な困難に見舞われてきた土地でもあります。それは今も変わらず、無料駐車場代わりに使われてしまっている河川公園や、砂湯を取り巻くモラルの問題、SNSによる風評など様々な課題を抱えています。
 湯原温泉で宿を営む一人として、私も日々頭を悩ませております。


▲多くの被害や災害、風評に見舞われていた湯原温泉


2. アニメによる地域おこし
 そんな折、立ち寄った羽田空港国際ターミナルで日本各地の温泉地をキャラクター化し、観光地の宣伝を行う温泉むすめ達を見かけました。その中にいた温泉むすめの一人こそ、湯原温泉の湯原砂和でした。
 全国的にも、アニメによる地域起こしの取り組みはまだ始まったばかりのころです。けれどこの出会いをきっかけに、温泉むすめを窓口の一つとして使うことができないかと考えるようになりました。

 アニメと言えば秋葉原がすぐに思い浮かびました。積極的にアニメを情報発信に使用し、町は日々変化しています。現地では老若男女問わずお祭り騒ぎの活気があり、カオスという状態が表現としてピッタリだと私は思っています。
 今ではアニメのイメージが強い秋葉原ですが、かつては、その当時新しい単語であった“電気”を主体に取り入れた町でした。当然新しい試みであったので様々な問題もあったと思います。「しもたや」風情だった秋葉原の発展は、“電気”で一丸となり町が作られ、連綿と受け継がれた先に、今ではアニメを使った観光の町にシフトしています。

 とはいえそれを湯原温泉でも実現できるかと言えば、一筋縄ではいきません。通常、アニメによる観光には様々な問題が立ちふさがります。


▲コロナ禍の中、全国のファンから届いたお祝いや応援の数々

① 権利関係のややこしさ
 商標、著作権などの知的財産の利用に対するロイヤルティは期間、金額など法に関わる側面もあり、交渉や手続きには手間も時間もかかります。ヒトやカネの豊富な土地ならまだしも、多くの観光地では旅館の方をはじめ、それぞれの本業がある中で取り組むことになります。
 そのため広告代理店などに任せてしまうのが一般的です。しかしそれでは一過性のイベントは行なえても、継続的にお客様を呼び続ける施策にはなかなかつながりません。

② 地域の理解や協力
 アニメを含む漫画やイラストなどは、サブカルチャーであり“子供”や“公序良俗に反する”というイメージが先行しがちです。もし仮に取り組みが成功し、お客様を連れてきてくれる施策になったとしても、それ以前に地域からの理解や協力がなければ、その施策を継続させることはできません。

③ マネタイズ
 アニメによる観光でお客様が足を運んでくださったとしても、地域の側でお金を受け入れる場所がなければそれは持続可能な取り組みにはなりません。
 確かに観光客数は大事です。しかしながら訪れてくださった方々にお金を支払っていただけることを提供できなければ、ただの慈善事業となってしまい、疲弊するばかりとなってしまいます。

④ 費用対効果
 アニメなどのコンテンツを使わせてもらう以上、当然に権利者の方にお金を支払います。また、イベントを行うのもタダではありません。かけた費用に対して、どれだけのお客様が来てくださるか。どれだけのお客様がその土地のファンになってくださるか。
 アニメのファンとしてその土地を訪れた方を、その土地のファンにするのは至難の業です。

 数多の壁があるアニメによる観光促進ですが、こと温泉むすめは地域振興を目的とし、かつ観光地目線であり、取り組みを行うことに気軽さがありました。ロイヤルティフリーで利活用を行えるコンテンツであり、地域の人のアイデアで自由にグッズを作ることもできますし、広告宣伝に使用することも可能です。温泉むすめの先行事例でもあり、旅館仲間のいる有馬温泉や飯坂温泉にも実際に赴き、その取り組みの内容を勉強して今に至っています。
 元々、3.11の東日本大震災で甚大な被害を受けた生まれ故郷の福島と東北地方をなんとかできないかと温泉むすめの創始者である橋本プロデューサーが始めたコンテンツだからこそ、観光地のことをどこまでも考えてくれていました。

 
▲古林氏が偶然出会った羽田空港の温泉むすめ物産展。多くの外国人や旅行客で賑わっていた。

3. 嬉しい誤算
 しかし、いざ取り組もうとしたとき、本当に湯原温泉に馴染むだろうか。そして、ファンの方は本当に来てくださるだろうかと不安になりました。
 アニメ要素もない施設にいきなりキャラクターのパネルを配置することにはどうしても違和感がありました。けれど湯原温泉の役に立とうと生まれた仲間を受け入れることに、時間はかかりませんでした。
 生みの親であるイラストレーターは造詣が深く、地域の特色をちりばめたイラストに仕上げてくださっています。キャラクターのパネルは、一般のお客様に温泉や地域の説明をするにも一役買っています。
 また、最初こそ外の人が作ったキャラクターでしたが、自分たちで自由に利活用をできるからこそ、少しずつ地域の人たちで作り上げていくキャラクターになってきました。今ではなにか取り組みをするときは地域の人で話し合ってその内容を決めているほどです。
 そしてその思いが通じたのか、ファンの方もたくさん訪れてくれました。さらに驚いたことに、ファンの皆さんが想いを寄せる先は湯原砂和だけではなく、湯原砂和の生まれた地域、つまり湯原温泉も対象だったのです。温泉地ありきの温泉むすめだからこその結果だと思っています。
 ある日、ファンの方から“奉納品”として、他の温泉地で展開されている温泉むすめのグッズを頂きました。グッズは一つ、また一つと増え、今では“奉納”されたグッズでロビーの一角が埋め尽くされています。その一つ一つが、ファンの方との思い出です。


▲はんざき(オオサンショウウオ)繋がりで藝大生との絆が生まれた手作りの祭壇も設置されている


4. 湯原砂和とこれから
 湯原温泉での温泉むすめの取り組みは、たった一軒からスタートしました。
 しかしそれから、地元の酒屋、寿司屋、カステラ屋、パン屋、精肉店、ガソリンスタンドと少しずつ協力してくれる人の輪が広がっていき、気づけばお年寄りから子供にまで愛される観光大使となっていました。
 コロナ禍では旅館仲間の倒産もあり、危機的状態で本当に藁にも縋る思いでした。そんな時にさした光明の一つが温泉むすめなのです。温泉むすめをきっかけに訪れる方のおかげもあって、なんとか乗り越えることができました。
 どっと押し寄せて温泉地を埋め尽くすほど、ファンの数が多いわけではありません。しかし参加店舗だけでなく他の店も利用し、コロナにも気遣いながら利用するファンが多いことに涙が出ました。地域をリスペクトして観光してくれる。観光客全体を考えても、そんな客層こそ、とても貴重な存在です。
 この過疎集落の観光大使として、湯原砂和は確かに湯原温泉のファンを連れてきてくれました。

 このことは湯原にとどまらず周辺の奥津温泉・湯郷温泉、そして隣県は鳥取県の三朝温泉など県を超えた観光連携にもつながっています。美作三湯も地域関係者のポケットマネーから温泉むすめが始まりました。
 疲れていた地域に笑顔を与え、県や市にも地域振興が伝わり“これから“という状態でした。今、様々な意見もあり、私達だけではない問題にまで発展しています。ですが、一つの側面だけを見て決めつけるのではなく、コロナ禍を助けてくれた、この地域で生まれた一員として、私達は湯原砂和を考えています。

 温泉むすめは万人がもろ手を挙げて受け入れられるものでは無いのかもしれません。ですがせめて、地域を知るための入り口の一つとなっていることを踏まえていただき、実際に現地に訪れることがあれば、温かく見守っていただけたらと思います。

<湯原温泉 with 温泉むすめ>

















 



#温泉むすめありがとう

2021/11/25
湯原砂和プロジェクト代表
古林裕久

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