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<連載>『温泉むすめ』と共に歩む 第九回 ~ 玉造温泉旅館協同組合 内田哲生さん ~

11月28日開催のトークイベント(本インタビューは温泉むすめ トークイベント in 玉造の前日に実施)の準備が着々と進む中、玉造温泉での取り組みを導いた立役者が、その熱い思いを語ってくださいました。第9回となる今回は、玉造温泉旅館協同組合 事務局次長の内田哲生さんが考える、温泉むすめとの向き合い方を伺っていきます。



◆観光庁後援プロジェクトという信頼感

――温泉むすめに取り組むにあたって、最初のきっかけはなんだったのでしょうか?

内田:玉造温泉には和風バンドの営業メールなどがよく来るんですが、温泉むすめさんからの最初のご連絡も、その類いなのかなと思いました。一応、理事会には掛け合ってみたのですが、当時は「見送り」という形になりました。

――それが一転、今では観光大使に就任するほどに取り組みが進んでいますよね。

内田:潮目が変わった理由として一番大きかったのは「観光庁の後援」でした。玉造温泉での取り組みが一度見送りになった後、エンバウンドの橋本社長が直接ご説明に訪れてくださいまして。後援が決まったのもちょうどそのころでした。

――観光庁の後援とはどのような意味を持つのでしょうか?

内田:温泉むすめに対してはまだ理解がない中で、信頼感を与えてくれたという点で、大きなものでした。「これは本物だよね。とりあえずやってみようか」と話が進んでいきましたから。とはいえ、石橋をたたきながら少しずつの進展にはなります。宿泊プランとかが一気に広がっていくのが理想ではありましたが、まずは旅館協同組合からという形で取り組みを進めてきました。

――温泉むすめの取り組みを始めてみて、実感できる効果は出ているのでしょうか?

内田:新型コロナウイルスによって観光客が減少してから、案内所(組合が運営)を訪れてくれる方は一日5人程度になってしまったんです。ですが、その5人のうち3人は温泉むすめのファンの方でした。これはスーパーコンテンツだな、と思いましたね。ここ数日間は玉造でのイベントがあるからか、久しぶりに満館になっている旅館さんもあります。

――それはすごいですね。訪れたファンの方とはやり取りなどはあるのでしょうか?

内田:温泉むすめのファンの方とはよく直接話をします。こちらから話しかけると、温泉むすめのことや他の温泉地のことなど、いろいろと教えてくれるんです。一般のお客様よりマナーの良い方が多いのも印象ですね。たまに、無言でグッズだけ買って帰られてしまう方もいらっしゃいますが、そのような方は逆に珍しいくらいです。

――案内所が、ファンの方とのコミュニケーションの場になっているのですね。

内田:基本的に案内所では旅館や温泉街店舗の案内程度しか行いません。ですから、案内所を訪れて長話をしていかれる方は、ほぼほぼ温泉むすめのファンの方ですね。タイミングによっては、30分でもお話をされて行かれます。さらに嬉しいことに最近は、私が席を外していたときなど、「内田さんがいない」といって帰っていかれるファンの方もいらっしゃいます。

――内田さんに会うために、案内所にいらしている方もいらっしゃるのですね。

内田:こちらとしても、何度も会いに来てくれる方は自然と顔を覚えてしまいます。二か月に一回大阪から来る人もいらっしゃって。案内所のスタッフでは『スタメン』と呼んでいる方が何人もいらっしゃいます。

――ちなみに、『スタメン』になったりすると、サービスがよくなったり、メリットがあったりするのでしょうか。

内田:いえ、それはまったくありません。彼ら彼女らも特別扱いを求めているわけではありませんし、こちらからもするつもりはありません。それでも、例えば彗ちゃん(玉造の温泉むすめ)の誕生日企画などを催せば必ず来てくれる、必ず集まるメンバーがいます。誕生日プレゼントもユニークで、風呂桶にはんだごてで絵を描いたくださった方もいます。こちらは今も案内所に飾ってあります。

――プレゼントといえば、温泉むすめ特有の奉納という文化がありますよね。

内田:初めのころは奉納文化の意味が分かりませんでした。なんでせっかく買ったグッズをくれるの?どうすればいいの?という感じでした。しばらくして、他の温泉地での取り扱いの様子を調べてみたところ、そこでようやく、これが「聖地巡礼の証」だと分かったんです。

――玉造温泉にも祭壇はあるのでしょうか?

内田:案内所のものは最初は小さく始めて、それが徐々に大きくなって、今は真ん中に大きく場所を取ってあります。広いスペースを確保しているつもりですが、もう飾り切れないほど奉納品をいただいています。ただ、内心ではもっと広げたいと思っていますが、やはり『温泉むすめ』一色というわけにもいきませんから、そこは温泉地全体とのバランスを取りながらですね。


◆頭打ちを打破していく試行錯誤

――神様である温泉むすめの設定としても取り入れられている『神在月(かみありつき)』を始め、玉造温泉にはすでに強いブランド力があると思っています。それにも関わらず、温泉むすめに取り込むのはなぜなのでしょうか?

内田:確かに玉造温泉には、出雲大社を理由に、定期的にお客様がいらしてくださいます。ですがそれはあくまで出雲大社効果です。

――他の温泉地と比べたとき、それだけでも充分なようにも感じてしまいます。

内田:出雲大社では行事も通年でありますし、年間でもかなりの人数が安定的に玉造温泉を訪れてくれています。ですが、安定しているからこそ、それだけでは頭打ち感がありました。出雲大社に頼るだけでなく、自分たちでも何かしないとだめだと思いつつ、でも、なにをしたらいいのかわからないというタイミングで、接点を持ったのが温泉むすめでした。

――新たな客層を取り込む施策だったのですね。

内田:実際、温泉むすめのファンの方に、どこに宿泊したのか聞くと、玉造温泉内のことが多いです。ファンの方が宿に泊ってくれている。単にグッズだけを買いに来ているのではなく、地域全体にお金を落としていってくれる。それが温泉むすめなんだ、とより多くの旅館の関係者が気づくといいなと思っています。今はまだ、玉造温泉内にその認知が少ないかなと感じています。

――今回のトークイベントがその気づきの起爆剤になるといいですね。

内田:企画した当初は、本当にやるのか?という意見も玉造温泉内部から少なからずありました。ですが今では、150人では定員として少なすぎるだろうと逆に言われています。(チケットは数日でソールドアウト)

――観光大使への就任は、温泉地内外への認知の拡大としても効果的に働くものと思います。松江の観光大使として就任された、声優の田澤茉純さんと高野麻里佳さんのお二人に期待することはなんでしょうか?

内田:あまりわがままを言うつもりはありません。関連するツイートをたまにしてもらえるだけでも充分嬉しいですね。他には、いずれまた、トークイベントやライブなどを松江市内で実現できるといいなと思います。


◆取り合うのではなく、みんなで満足感を高めていく

――今回の観光大使就任、そしてトークイベントはお隣の松江しんじ湖温泉さんと一緒に取り組まれています。温泉むすめの動きが始まる前から、もともとやり取りはあったのでしょうか?

内田:いえ、やりとりもほぼなく、一緒に何かをするということもなかったです。せいぜい、松江市が行う冬のキャンペーンの集まりであいさつをする程度でした。それが一転、明日の玉造イベントでは松江しんじ湖温泉の“のぼり”が20本も並びます。開催場所が玉造温泉であるにも関わらずです。今までを思えば、これはありえないことです。

――すぐお隣に別の温泉地があると、お客さんの取り合いになってしまうようにも思います。

内田:そこは『取り合う』のではなく、『島根に来るお客さんを増やす』ことが大事になると思っています。お客様を取り合っていては、いずれ共倒れになってしまいます。松江しんじ湖温泉や出雲からのお客さんを取ってやるという発想ではなく、オール島根で、まずは島根に来る人を増やしていく必要があるのではないでしょうか。

――取り合いになると、なにが起こってしまうのでしょうか?

内田:まず分かりやすいところとして、一番手っ取り早いのは値引き合戦です。お客様は割引に飛びついてしまう傾向がありますので、旅館側もこぞって追随します。ですが、料金を下げることには限界がありますし、そもそも旅館も苦しいので、苦肉の策です。

――温泉地同士だけでなく、温泉地内の旅館同士でも、お客さんの取り合いが発生していたんですね。

内田:これからは、取り合うのではなく違う考えが求められていきます。どんどんお客さんを旅館の外に出して、温泉街全体を楽しんでいただき満足度を高めないといけない。今も繁栄している温泉地は、どこも街の満足度が高い傾向にあります。こっちも満喫、あっちも満喫みたいにしてやっていきたいですね。

――長い歴史を持つ玉造温泉だからこそ、前に進んでいく中で、変わってしまう部分と、それでも変わらず残り続ける部分があるのではないでしょうか?

内田:きっとこれから先も、『縁結び』と『美肌』は玉造温泉として変わらない部分になっていくと考えています。ですが、それらをベースにしたうえで、温泉むすめをはじめとしたいろいろな新しい取り組みも今後は動いていくのだろうと思います。
 特に、各旅館さんはお客様を出迎える最前線ですから、ユニークな取り組みも多いです。ハロウィンを大々的にやったりだとか、スタッフさんによる手品だとか、ちゃんとお稽古をして石見神楽(いわみかぐら)を披露するところとか。新しいことをたくさん行なっています。

――旅館さんから波及して、温泉地もいろいろと変わっていきそうですね。

内田:ただ、温泉地全体として取り組もうとした場合は、順序を踏んでいかないとなかなか意見が通らないのがネックではあります。面白いしやろうよ、と気軽に動けるようになれば、様相も変わってくるのかなと思います。

――この先、玉造温泉はどのような温泉地になっていくと内田さんはお考えでしょうか?

内田:玉造温泉は、派手な温泉地になることを目指してはいません。街灯もわざとぼんやりさせています。ですが、絶対にさびれてはいけません。都会の人が足を運んでくださったときに、この玉造温泉に流れる時間の中で、ゆっくり静かでくつろげるような温泉地になっていってほしいです。


取材&文 野口大智

取材協力:玉造温泉旅館協同組合
http://tamayado.com/

『温泉むすめ』と共に歩むシリーズはこちら

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