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<新連載>『温泉むすめ』と共に歩む 第一回 ~ 小野川温泉 登府屋旅館 遠藤直人さん ~

 2017年3月に本格稼働した温泉むすめプロジェクト。観光庁の後援や各地の観光大使に着任するなど、その広がりは少しずつではありますが、確実に全国の温泉地に浸透しています。
 そんな広がりを支えるのが各温泉地のキーパーソンたちです。それぞれの方法、考え方で『温泉むすめ』プロジェクトに取り組む方々から、その思いを引き出していく本連載『温泉むすめと共に歩む』。

 記念すべき第一回は、山形県米沢市の小野川温泉で『温泉むすめ』プロジェクトの推進役を務める登府屋旅館・代表取締役の遠藤直人さんにお話を伺いました。

※このインタビューは2020年8月に実施したものです。

◆ 120番目の『温泉むすめ』

——小野川温泉といえば、小野小町にも縁のある温泉地です。そういった歴史や伝統の中に『温泉むすめ』というコンテンツが溶け込んでいくことへの違和感はなかったのでしょうか?

遠藤 :そこはむしろ伝統の線引きをいかに壊すかだと思っています。実は『温泉むすめ』も別に特異なことをやっているわけではなくて、各自治体がゆるキャラを持っているのと変わりありません。嘘やでたらめの情報でつくられたキャラであれば問題ですが、『温泉むすめ』は各温泉地の特徴で各キャラが成り立っており、正しい情報を伝えています。

——その温泉地について知ってもらうきっかけになる、ということでしょうか?

遠藤:その通りです。『温泉むすめ』とはすなわち、温泉地を紹介するパンフレットだと言えるんですよね。このほうが伝わる人がいるならば、その伝え方をどういう切り口にするか、という話です。

——では、『温泉むすめ』の活動が盛り上がっていない温泉地との違いはなんでしょうか?

遠藤 :動き出せるキーパーソンがいるかどうかだと思います。やっぱり伝統を守る側の立場からすれば、どこの温泉地でもパッと見は(温泉むすめが)邪道に見えてしまいますから、よくわからないものに手を出すぐらいなら、と避けてしまうのが普通の反応です。
だからこそ、キーパーソンが先行して突っ走ることが必要になります。動き出しは小さくとも、ファンが訪れ始めると少しずつ賛同者が増えてきて、次第に大きなうねりになっていくんです。

——キーパーソンたちが突っ走った結果、飯坂温泉にはキャラクターグッズであふれる『真尋ちゃん部屋』まで誕生しました。

遠藤 :飯坂温泉さんは大きな旅館(吉川屋)と小さな旅館(ほりえや旅館)がタッグを組めたことに良さがあると思っています。『真尋ちゃん部屋』は、ほりえや旅館さんならではの企画力と実現力でしたね。みんなが思いつくけど実現できないですから。

——そうして吹き込む新しい風は、温泉地にどのような変化をもたらしていくのでしょうか?

遠藤 :旅館の生き残りは感覚やセンスが大事になりますが、それらは若い人のほうが確実に強いです。伝統に凝り固まることなく、ちょっと違う発想の人がやると目立ちますし、生き残っていけます。飯坂温泉さんも若い感性のある人が考える『これが良い』を突き詰めたからこそ、あそこまでの盛り上がりを見せているのだと思いますね。


◆ 『うちの子が最強』という想い

——観光業界に広域連携が広がりつつある中、その実現には枠組みとしての難しさがあると聞きました。

遠藤 :そうですね。別の温泉地同士というだけでなく、市も違えば県も違います。行政区としての壁もあり、他のところと組むことを考えはしても、実現はしませんでした。

——それでも、2019年12月に実施した「みちのくスタンプラリー」では東北5県・14温泉地・61施設が参加しました。その壁を『温泉むすめ』は飛び越えたわけですが、なぜそれが可能だったのでしょうか?

遠藤 :『温泉むすめ』を語るうえで、どうしても『うちの子が最強』なんです。他の『温泉むすめ』も良い子たちですが、うちの子には勝てません。
これはどの温泉地の方も自分の所の『温泉』について思っているはずです。でも、『うちの温泉は最強』とはちょっと言いづらい。『温泉むすめ』はうまくその発露になっているからこそ、すんなり受け入れられているのだと思います。

——それは各温泉地の特徴や歴史、風土をもとにキャラクターがつくられているからでしょうか?

遠藤 :観光業界は成功事例を真似しやすい業界ですから、多くのことが均質化していってしまいます。けれど、そこで均質化できない部分を『温泉むすめ』が拾っているんです。今いるキャラはすべて個性が違っていて、まったくかぶりがない。ここに、キャラとして立っていることの意義があると思います。その地域の個性は、温泉地にいる人たち自身が見失いがちな部分でもありますから。

——『自分たちの温泉地とは』というのを端的に表す存在になっているのですね。

遠藤 :そのおかげで、今までなかった結束が『温泉むすめ』を通じて構築されています。たとえば、温泉地としてだけで見れば、塩原温泉さんなどは各施設が離れすぎていて、もはや利害関係がないので普通は集まれません。それがよく連携しているなと思います。

——確かに塩原温泉さんもものすごい勢いで広がっていますね。では、この小野川温泉、ひいては米沢において『温泉むすめ』は今後どのようになっていくでしょうか?

遠藤 :米沢でも、伝統を重視するところはたくさんありますが、少なくとも『温泉むすめ』には反発されていません。キャラクターが米沢市の『おしょうしな観光大使』に就任していることもあり、この先小野川小町ちゃんの認知が米沢の人の間で広がっていけば、誇りになっていくはずです。キャラ単体で見ていると拒否感が先に立つかもしれませんが、自分の子をよその子と見比べたときに、『うちの子が最強』となっていくのではないかと思っています。


◆ グッズは旅の思い出

——難易度が高いと言われた『みちのくスタンプラリー」でも次々と達成者が出るなど、ファンの方々の動きには目を見張るものがあります。

遠藤 :こんなにか、と思います。(難易度が)優しいほうが良いのかと思っていたら、全然そんなことはありませんでした。

——最近は日本全国でどんどんグッズが増えてきています。そして、発売されたその日のうちに購入の報告がTwitterに投稿されているのを必ずと言って良いほど見かけます。

遠藤 :もはやファンとの戦いになってきています(笑)。揃えられないぐらいにグッズが増えていくと良いですね。あとは一度売り切れたとき、わざと第一弾のものはつくらないようにすると、前のデザインに希少価値が出ます。当館で今売っている手ぬぐいも第二弾のもので、第一弾はすでにつくっていません。

——日本各地でグッズが発売されているにも関わらず、原則として『温泉むすめ』グッズの通信販売は行われていません。そこにはどのような意味合いがあるのでしょうか?

遠藤 :温泉むすめのグッズは現代のお土産なんです。そこに行かないと買えないからこそ、たとえば西表島など遠いところのグッズをもらったとき「西表島に行ってきたの!?」となり、ファンが自慢できるんです。これがもし通販で買えてしまうと現地に行ったという意味や意義が薄れてしまいます。昔ならペナントや提灯がそういった位置づけだったように思います。

——まさか、そう来たか!というグッズやイベントもありますよね。

遠藤 :『温泉むすめ』はそれぞれの自由度が高く、何より受け入れの目安にもなるキャラクターの等身大パネルが分かりやすいので、こちらとしても積極的に使いたくなります。グッズやイベントなどを考える材料として『温泉むすめ』を各温泉地がどのように使っていくのか、今後が楽しみですね。

——自由度という点について、グッズやイベントなどは温泉地の方々が考えて主導されることが多いのでしょうか?

遠藤 :むしろそのケースしかありません。エンバウンドさんに用意してもらった『温泉むすめ』スターターキット(等身大パネルと缶バッチ、ステッカーの3種が初期セットとして無償で提供される)をどう使っていくか。そこに自分たちのイニシアチブがあります。
いずれにせよ温泉地の状況がわかっていないと活用するのは難しいですし、コンテンツがゴリ押しされても怪しげな雰囲気がただようだけです。キャラを動かせる自由度があり、そしてキャラを自分たちがつくり上げていったという構図があるからこそ、熱量も高くなるのだと思います。『萌えキャラを使えば売れるからつくろう』といった考え方とは根本的に違いますね。


◆ ファンと一緒につくるコンテンツ

——ファンが温泉地を訪れる目的には『等身大パネルに会いに行く』というのも大きな意味を持っていると感じます。

遠藤 :観光こそ歴史的には最近のものですが、聖地巡礼のような宗教に関するものは昔から多くありました。それも外国人の聖地巡礼では目的地にストレートで行くことが多いのに対して、日本人はいろいろなところに立ち寄って、参拝とは関係ない遊びもしていきます。そういう意味で『温泉むすめ』のパネルは仏像に近いのだと思います。パネルを目印に訪れて、その周りにも立ち寄っていく。

——小野川温泉でもそれぞれの店舗でグッズが販売されていますので、お店を回る楽しさもありそうですね。

遠藤 :小野川温泉のように通りをはさんで宿やお店が立ち並び、どのお店もやっているというのは比較的珍しいんです。さらにここの場合は、それらが浴衣で歩いて回れる範囲内ですから。

——そうしていろいろなお店にファンが足を運ぶ中で、登府屋旅館さんをはじめとして一部のお店には祭壇がつくられています。他の温泉地のグッズも並んでいるようですね。

遠藤 :ここに限らずどこの祭壇でもそうですが、いろいろなところに行ってきたファンの方が奉納してくださったものです。ファンとも協力して、自分の足跡を残していける余地をつくるのが大切だと思っています。

——では今後『温泉むすめ』の理想はどのような形だとお考えでしょうか?

遠藤 :若い方だけでなく、小さい子どもや小学生にも認知が広がると良いなと思います。
これまでの温泉地は『日本人は温泉が好き』にあぐらをかいてきました。ですがこのままでは、いつか温泉に価値を置かれなくなったときに困ってしまいます。だから温泉の良さを『温泉むすめ』をきっかけにして知ってもらうことが大切になると思います。

取材&文 野口大智

『温泉むすめ』と共に歩むシリーズはこちら

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