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<連載>『温泉むすめ』と共に歩む 第二回 ~ 飯坂温泉 吉川屋 畠 正樹さん ~

 今や「温泉むすめ」ファンでその名を知らぬ人がいない、福島県・福島市にある飯坂温泉。『温泉むすめと共に歩む』の第二回となる今回は、飯坂真尋ちゃんが息づく街・飯坂温泉で『温泉むすめ』プロジェクトの実行委員長を務める吉川屋・取締役社長の畠 正樹さんから、温泉地と温泉むすめの神髄を引き出していきます。



※このインタビューは2020年9月に実施したものです。

◆ 現地が楽しんで取り組む

――飯坂温泉で『温泉むすめ』の活用が始まってからはや二年が経過しています。各施設の動きを見ていると、ベースは同じ飯坂真尋ちゃんであっても、それぞれのやり方で表現しているように感じます。

畠:飯坂温泉において『飯坂真尋ちゃんプロジェクト』は自走を始めてきているんです。飯坂温泉という場所に飯坂真尋ちゃんが根付いている証拠でもありますが、最近はその勢いが凄すぎて……。プロジェクトの実行委員長をやっている私でも、もう追いつけていません(笑)

――グッズや等身大パネル、新規イラストの数が凄いことになっていますよね。新しい情報がTwitterに出てくるたびにわくわくしています。

畠:その情報発信も、たまに同じ日に新情報が被っていたりするんです。『新しいのができました』というニュースを一日でもずらせば話題が分散するのに、到着してすぐにTwitterで報告してしまうので(笑)(現在はグッズ販売日を週末にして事前リリースするように改善されています)

――Twitterでは情報発信にとどまらず、ファンの方との交流も頻繁にされています。この現象は今まではなかなか無かったことのように思います。

畠:それまではTwitterのアカウントを持ってなかった人も、飯坂真尋ちゃんをきっかけに始めるなど、皆さん楽しんでいるみたいです。だから続いていくし、発展していくのだと思います。やっぱり、無理は続きません。とはいっても、私自身かなり無理してきたところはありますが……(笑)

――無理を承知で、前に進んでいく。畠さんにとって、温泉むすめを動かす原動力はどこにあるのでしょうか?

畠:そこに関しては『好きだから』です。『好きだから』こそやり続けられますし、『好きだから』こそ、やっていく先に失敗がありません。やっていく中でのトライアンドエラーはあったとしても、本当に好きなら成功するまで続けてしまいますからね。


◆ 地域とファンをつなぐ神様

――普通であれば観光業は『旅館の人と宿泊者』のような関係に留まってしまうことが多い業界かと思います。しかし飯坂真尋ちゃんはそれを拡大させて『飯坂温泉の人とファン』という相互性のある関係性を成り立たせていますよね。

畠:これは『温泉むすめ』という概念に対してのリアリティを、温泉地とファンが共通認識として持っていないと成り立たない現象なんですよね。それって凄いことだと思いませんか?
 エンバウンドさんは『温泉むすめ』という世界観や設定は準備してくださいましたが、本物の神様を用意してくださったわけではありません。しかし、今温泉地とファンの間に起きている現象は、お互いが協力して概念に血肉や魂を与えて実在化させようというプロセスなんです。

――確かに、飯坂温泉の方の持っている『飯坂真尋ちゃんのイメージ』と、ファンの方たちが持っている『飯坂真尋ちゃんのイメージ』は、示し合わせたわけでもないはずなのに、自然と一致しているように思います。

畠:日本人はかつて神様とともにあった民族なので、そのDNAが為せる業なのかもしれません。八百万の神々を受け入れる感覚なのでしょう。二次元キャラクターを受け入れるかどうかより、実在するか否かを抜きにして神様を共有できるということは、日本人が持っていた隠れた資質ではないかと思います。

――温泉というものを紐解く上でも、神代の時代まで遡ると開湯伝説だったり、そもそも温泉が湧くメカニズムだったり、神がかり的なものがありますよね。

畠:温泉とは『人間の範疇を超えたものとの出会いの場』だと私は考えています。実際、お風呂場に神棚があることも少なくないです。そして『温泉むすめ』も神様という設定ですし、やはりここに通じるものがあると思っています。
 温泉は自然の恵みであって、人間にどうこうできるものではありません。温泉旅館は自然の恵みを提供してお客様からお金をもらっていますが、これは当たり前のことではないんです。旅館の経営者として、それを忘れてはならないと思っています。


◆ 帰ってきたくなる場所

――ファンの方の中にはかなりの頻度で飯坂温泉を訪れている方もいらっしゃると聞きました。

畠:そんな頻度で飯坂温泉に来るなら、いっそのこと引っ越してきてしまえばいいのに、なんて話をすることもあるくらいです。中には大変うれしいことに、飯坂温泉を『居場所』のようだと言ってくださる方もいらっしゃいます。

――旅先が『居場所』になるというのは、観光地という枠組みにとらわれない、新たな在り方を垣間見ているように思います。飯坂温泉における『温泉むすめ』の取り組みは、そうなるように狙っていたのでしょうか。

畠:いえ、そういうつもりはまったくありませんでした。気がついたら、いつの間にかこうなっていました。

――とはいえ、そう思ってもらえるほどの魅力は、一朝一夕に成り立つものではありませんよね。飯坂温泉という温泉地は、いったいどのような場所だったのでしょうか。

畠:飯坂温泉は、他の所に負けないほどの『人の力や地の力』を持っている温泉地だと胸を張って言えます。そしてそれは飯坂温泉がもともと持っていたものですが、エンバウンドさんが作られた温泉むすめの飯坂真尋ちゃんをきっかけにして、多くの方に知ってもらえるようになりました。ファンの方たちをファンとして受け入れて、おもてなしできる場所として、飯坂温泉のポテンシャルが存分に発揮されたのではないでしょうか。

――飯坂温泉の全体で『飯坂真尋ちゃんプロジェクト』が展開されている強みもそこにあると感じます。

畠:『飯坂真尋ちゃんプロジェクト』を進めていく中で、私が強く意識している部分でもあります。きっと、どこか一つの店舗だけが盛り上がっていたら、こうはなっていなかったと思います。特定の一店舗には短期的な利益になったとしても、温泉地全体にとってはあまり意味を成さないばかりか、もしかしたらマイナスに働いてしまうことさえあるかもしれないからです。

――今では名実ともに、飯坂真尋ちゃんの温泉地『飯坂温泉』になっていますよね。

畠:今の飯坂温泉ではどこに行っても飯坂真尋ちゃんに会えて、どこに行っても飯坂温泉の人と話ができる。だから飯坂温泉という場所と、そこにいる人が、ファンの方にとっての『帰ってきたくなる場所』になっているのだと思います。


◆ それぞれのペースで歩き続ける

――『飯坂真尋ちゃんプロジェクト』に取り組むうえで、その目標はどのように見据えていらっしゃるのでしょうか?

畠:やるからには『日本一、温泉むすめを取り組む飯坂温泉を目指そう』というのは目標のひとつですね。『日本一』をどう定義するかはその人によって変わりますが、だからこそファンの方などに『日本一だ』と言ってもらえることは大変名誉なことだと思っています。
 しかしそれは同時に、いずれ目標を見失ってしまうことも意味します。目標はその時その時に合わせた段階をつくっていかないと、いざ達成してしまったときに立ち止まってしまいますから。そして、いろいろな人の集まりであればあるほど、再出発が難しくなります。

――常に次を見据えて、歩み続けていく必要があるのですね。

畠:成功体験は、最大の失敗体験にもなりかねません。そこをうまくフォローして『目標を示し続けること』は、自分の役割だと思っています。幸いなことに、飯坂温泉には特攻隊長としてのほりえや旅館の和田さんがいらっしゃいますから。良い役割分担ができているかなと思います。

――様々な人と一緒だからこそ、絶えず変化して進み続けていく。では、逆にそれでもなお変わらない目標や軸などはあるのでしょうか。

畠:次なる目標に突き進むだけでなく『地域の宝を磨いて発信したい』という根本の部分は最初から変わらずあります。どんな形に進んでいくにせよ、飯坂温泉の独自性を磨いていくことは継続していきたいと考えています。

――進み続ければ、いずれは壁にぶつかるのもまた世の常かと思います。『飯坂真尋ちゃんプロジェクト』にとっての限界のようなものはあるでしょうか?

畠:当たり前ではありますが、温泉むすめが刺さる対象はある程度限られています。それを限界と表現することができるかもしれませんが、私はそれでいいと思っています。
 『温泉むすめ』は飯坂温泉を活性化させる柱のひとつ。飯坂温泉という温泉地を真に活性化させるためには、そういった柱を一本一本立てていくこと、そして選択肢そのものを多くつくっていくことが重要だと思っています。

――もともとあった温泉地のポテンシャルを引き出しつつ、より幅広い方々に来訪してもらうために、多様性をもって盛り上げていくということですね。

畠:温泉の恵みのように自然に与えられた神様である『温泉むすめ』に愛情を注いで、温泉地それぞれのペースで取り組んでいくのがベストではないでしょうか。

――こうあるべき、という答えが存在しないからこそ、様々な表現が出てくるのかもしれませんね。

畠:私自身色んな温泉地や旅館さんに日々勉強させて頂いているので、飯坂温泉の取組が勉強になると言って頂けたら、少しでも恩返しできたかな、と嬉しい気持ちになります。

取材&文 野口大智

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