<連載>『温泉むすめ』と共に歩む 第四回 ~ 草津温泉観光協会 森田 耕さん ~
『温泉むすめ』の主人公にして、メインユニット「SPRiNGS」のセンターを務めるのが、草津温泉の温泉むすめ「草津結衣奈」です。そして、温泉地としてもその名を全国にとどろかせる群馬県・草津温泉。充分すぎるほどの知名度を持つ温泉地で『温泉むすめ』に取り組む意味とは。(一社)草津温泉観光協会の森田 耕さんにお話を伺いました。
※このインタビューは2020年9月に実施したものです。
◆動くなら体力のあるうちに
――さまざまな温泉地ランキングで首位を獲得するなど、草津温泉は今最も人気のある温泉地のひとつだと思います。そのメインターゲットはどの層を考えていますか?
森田 :主に日本の若い人を考えています。そうした方たちに将来、今度は家族で来てもらいたいですね。もしこれを逆に、温泉地をお年寄りや湯治のイメージで捉えていると、早々に先細ってしまいます。
――若い人をターゲットにする際のポイントのようなものはありますか?
森田 :若い人は遊ぶコンテンツに対価が必要だと分かっています。言い換えれば、価値のあるものにはそれなりの値段がかかるのを知っているんです。だからこそ、何に価値を認めてもらえるかを探っていく必要があります。
もちろん失敗したものもたくさんありますが、コンテンツはある程度、数を打たないといけません。これはその観光地に体力があるうちでないと難しいことです。草津温泉はそれができている土地だと感じます。
――『温泉むすめ』へ取り組むきっかけになったのも、その想いからなのでしょうか。
森田 :柔軟な考え方が根付いているので、草津温泉はイベントのやりやすい土地だと思っています。とはいえ、何でもかんでもやるわけではありません。実は『温泉むすめ』も最初はよく分からないものとして入ってきてしまったため、イベントを行うまでには至りませんでした。
――では、その転機はなんだったのでしょうか?
森田 :エンバウンドの代表である橋本さんが直接、草津温泉まで何度か足を運んでくださったことですね。その甲斐もあって、街の人の理解を得ることができましたし、『よく分からないもの』という印象が解消されました。
――それからは多くのイベントが草津温泉で行われてきました。特定の温泉地で行われた『温泉むすめ』のイベントの数としては他の追随を許さないですよね。
森田 :一過性にならない、ファンの応援が見えてきたことが、イベントの継続につながっています。コラボをやってみて、『来たからには貢献したい』という想いをファンの方が持ってくれていることが分かったのが大きいですね。
これまでに4回のイベントを行いましたが、今後もやっていくつもりです。ちなみに新型コロナウイルスの影響がなければ、すでにもう何回かやれていたはずでした。
◆『温泉むすめ』のシンボル
――『温泉むすめ』というコンテンツにおいて、草津結衣奈というキャラクター、ひいては草津温泉はシンボリックな温泉地です。『温泉むすめ』でお決まりの掛け声『チョイナ』も『草津節』に由来しています。
森田 :街としてのバックアップが足りないくらいの存在感だな、と思っています。同時に温泉地としても、イベントをきっかけに草津温泉を好きになってくれる方が多くいらっしゃいますから、結衣奈ちゃんの力強さを感じています。結衣奈ちゃんは『ゆもみちゃん』を尊敬してくれているので、絡めて盛り上げていければなとは思います。
――街として盛り上げていくうえでの難しさとはなんでしょうか?
森田 :こういったコンテンツに限らず、世代間ではどうしても得意不得意が出てきます。ですから、動ける人が動いて、街全体を少しずつ納得させて巻き込んでいく必要があります。幸いなことに草津温泉はイベントをやりやすい土地なので、そのギャップを手探りでつかんでいくチャンスとして、イベントを重ねていくことが重要です。
――イベントのやりやすさと定着のしやすさはイコールではないのでしょうか?
森田 :草津温泉は小さい町ですが、個性豊かな人たちがたくさんいる場所です。そして変化の風が常に吹いている場所だからこそ、大きな風は起こりにくい。
逆に言えば、『温泉むすめ』に効果があることが少しずつ街としても見えてきている今、いずれは変化につながっていくと思っています。一足飛びにはできないですが、地道に進めていくことが一番の近道になります。
◆『集客』と『人材』
――すべてが順風満帆のようにも見えるのですが、今、草津温泉が直面している課題はありますか?
森田 :大変うれしいことに、草津温泉には多くの観光客が訪れています。それがむしろ今、お客さんが『来すぎている』レベルなんです。観光客は来てくれているけれど、その数に対して現地の人が圧倒的に足りていないという実情があります。現に、湯畑の周囲を中心にしてオーバーツーリズムになりかけているんです。
――確かに、湯畑の周りはいつ訪れても老若男女問わずとてもたくさんの方々がいらっしゃいますよね。
森田 :今はそれでも何とか回っているのですが、このままではいずれ人手が足りなくなり、サービスが低下します。そしてサービスが低下すると観光客が来なくなってしまう。その時が訪れてしまうのは絶対に避けなければなりません。
――人気な温泉地であっても人手不足は変わらないのですね。
森田 :観光業はやりがいも大きい仕事ではありますが、その分大変なことも多いです。憧れだけではなかなか難しい仕事だと思います。
――どちらかと言えば地域活性を考えるうえで、観光客を呼ぶ方法についての議論が多くあるように感じます。
森田 :確かに、いかにして観光客に来てもらうか、という危機感が世の中的には多いように思います。もちろんそういう視点も大切です。お客さんが来てくれなければ成り立たないわけですから。しかし、観光地においては『集客』と『人材』を両輪で考えていかないといけません。
――『集客』に見合った『人材』が現地にそろっていること。そこのバランスをどのように取っていくかが重要になるのですね。
森田 :どちらかというと『集客』の比重が大きい観光地が多い中、草津温泉では『人材』不足のほうが顕在化していますし、問題意識としても強いです。ただ、『温泉むすめ』のファンの方たちはキャラクターにとどまらず、温泉地そのものを応援してくださる方が多くて。観光地としての温泉地を知ってもらうことの先に、『温泉地』自体を知ってもらうところまでできればいいな、と思います。
――『温泉むすめ』は『集客』だけでなく『人材』にも活用できるのでしょうか?
森田 :少しずつ前例も出てきましたが、温泉地がまとまるきっかけとしてうってつけなコンテンツだと思います。もちろん、イベントを考えていきたい、という温泉地にもぴったりですね。なにか動こうというときに、『温泉むすめ』は良い軸になっていくと思います。
◆「温泉むすめ」の草津結衣奈
――これまでのお話を踏まえたうえでお伺いしますが、草津温泉において『温泉むすめ』に取り組む目的とはなんでしょうか?
森田 :今の草津温泉は、営業をするよりも、営業をされることのほうがとても多いです。そうなると自然に、自分たちから動くハードルが高くなっていきます。
湯畑を筆頭に、温泉そのもののコンテンツ力が強すぎるうえに、すでに『ゆもみちゃん』というキャラクターがいますから、どうしても『温泉むすめ、なくてもよくない?』という意見は出てきます。
――だからこそ、成果を積み上げていくことが必要になるのですね。
森田 :はい。そうしてイベントを重ねていく中で、少しずつ街に浸透していけばいずれ『ゆもみちゃん』と同じような立場にはなれるとは思います。『ゆもみちゃん』のグッズと並んで結衣奈ちゃんのグッズがお土産屋さんに並んでいる……というような形であれば、地道な積み重ねの先に、きっと定着はするでしょう。
ですが、『温泉むすめ』とはそういうものではないと私は考えています。
――その土地に根付くことがゴールではないということでしょうか?
森田 :『温泉むすめ』の面白さは、ひとつの温泉地だけではなく、全国に広がっているところにあります。草津温泉は良くも悪くも『草津温泉』というプライドを持っているので、草津温泉だけで物事を考えることが多いです。しかし、日本全国のさまざまな温泉地もそれぞれが誇る魅力を持っています。草津温泉にとって『温泉むすめ』は、それらをお互いに認めていける糸口になるのではないかと思っています。
――特定の温泉地ではなく、温泉全体として盛り上がっていくのですね。
森田 :草津温泉の場合、危機感は充分に持っています。それを温泉むすめがきっかけにしていい方向に活かしていきたいですね。この先、温泉地同士が手を組んで、お互いのいいところを見つけていければいいなと思います。そのつなぎ手として『温泉むすめ』は最適だと思いますし、いずれは『広域の観光資源』になっていくように思います。
まずは近い将来、草津温泉として『温泉むすめ』のキャラクターが集まるイベントをやりたいな、と思っています。
取材&文 野口大智