NEWS おしらせ

<連載>『温泉むすめ』と共に歩む 第六回 ~ 湯原温泉 プチホテルゆばらリゾート 古林裕久さん ~

本稿で第六回目となる『温泉むすめ』と共に歩む。今回は、湯原温泉のプチホテルゆばらリゾートの古林裕久さんに湯原温泉と温泉むすめの歩みを伺いました。温泉地の活性化とは「ストーリーを明確にすること」だと語る古林さん。その目に映る湯原温泉の未来とは。



※このインタビューは2021年1月に実施したものです。

◆湯原温泉と湯原砂和ちゃん

――湯原温泉で、温泉むすめの取り組みをはじめようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

古林:最初は、有馬温泉の金井さんから温泉むすめについてのお話を聞いていたんです。それから結構早い段階で湯原でもやろうとしていたのですが、最初は話が流れてしまったんですよね。とはいえ話としては面白そうだと思っていて。

――機会を伺っていた、と。

古林:湯原の人に、やってくださいとお願いするだけだと難しい。それならグッズをうちで仕入れて置いてもらえばいいんだと思いまして。最初にアプローチをかけたのが酒屋さんでしたね。

――粘り強く取り組みを始めたことで、少しずつ湯原温泉でも広がりを見せているように感じます。

古林:ファンの方の力も大きいですね。いろいろな施設を訪れたとき、ただグッズを買っていくだけではなくて。それぞれのファンの方がほかの温泉地の情報だったり、キャラクターの情報だったりを教えてくれるんです。それに、奉納という形でグッズも置いていってくださいますし。これは普通のファンと違うぞ…?と思いましたね。

――ファンの方との交流が増えるにつれて、祭壇も少しずつ変化してきたとか。

古林:実はすでに3回トランスフォームしています。祭壇というのがどうやら必要らしい、と聞いて。最初は突貫でした。しかし実際に置いてみたら、ファンの方たちが色々とグッズを持ってきてくれて。これはもしや…と飯坂を見に行ってみたら案の定すごいことになっていましたね。

――飯坂温泉の祭壇もそれぞれで独自の進化を遂げていますが、ゆばらリゾートさんの祭壇にもいろいろと秘密があるみたいですね。

古林:実はこの祭壇、ベースになっているのは東京芸大の学生さんが作ったものなんです。

――よく譲っていただけましたね。

古林:学生さんがオオサンショウウオの神輿を作られていて。でも、実は毎年土台を使いまわしているそうで、せっかく作ったものも、毎年壊しているみたいなんです。それが2015年度の藝祭で「大賞(上野商店街連合会賞)」を取ったおかげで、壊されずに済んでいたみたいで。縁あって補修を手伝うことになって、気が付いたら譲ってもらっていました。

――今ではその神輿をベースに古林さんのアレンジも加わっているみたいですね。

古林:神輿を持ってきたときに「祭壇」としてはなにか違うなと思ったんです。そこでまずは屋根をつけてみました。それにあわせて、急いで台座も作りましたね。そのあとは、鳥居も置いたほうがいいんじゃないかと思って。その流れで鈴もつけたんですけど、あれ?普通、鳥居に鈴はついてないよな、と。つけてしまってから気づきました(笑)。

――愛の詰まったお手製の祭壇になっているんですね。

古林:やっぱり、頑張って作ったものに反応があると楽しいですよね。

――砂和ちゃんのグッズも、いろいろと手作りされているとか。

古林:これをきっかけにAdobe Illustratorを買いました。ああでもないこうでもないとデザインで試行錯誤をして。どんなグッズなら喜んでもらえるかな、という思いと同時に、どこまでならエンバウンドの橋本プロデューサーが許してくれるかな…という、限界に挑む日々です(笑)。

――OKが出なかった、幻のアイテムや企画もある…?

古林:秘密です(笑)


◆温泉地を活性化させるということ

――街のためになにかをするという原動力はどこにあるのでしょうか?

古林:ずっと、自分の生まれ故郷が無くなると思っていました。岡山県の観光白書などを見てみれば、確かに常に湯原温泉の名前は出ています。ですが実際に街を見回したとき、有名な温泉地であるという実感がありませんでした。

――湯原温泉の外に出ていたからこそ見えてくることもありそうですね。

古林:もちろん、育ててくれた場所という印象は持っています。ですが、いかんせん湯原には、背中を見ろという、シャイな人が多くて。

――湯原に戻ってきて、古林さんはなぜ「宿」なのでしょうか。

古林:家が宿だった…というのがシンプルな理由です。とはいえ、宿は奴隷商売と言われることもあります。よく聞く言葉で「お客様は神様」と。ですが神様にも種類が沢山ありますから。それはあくまで、心構えの問題なんです。

――対等なコミュニケーションの上に成り立つ、と。

古林:そう考えたとき、宿は自分や街を表現する場所だと私は思っています。お金を稼がないと続けていけないのは当然ですが、だからといって「商売」だととらえてはいけないんです。宿こそ、観光客の方にとって、街のハブなんですよね。

――古林さんの表現する「ハブ」が砂和ちゃんにつながっているのでしょうか。

古林:昔から、ストーリーが大事だと思っていました。これまでを振り返ったとき、なにかを作って、人を集める…というやり方で湯原は失敗してきました。箱モノを作れば人が来るという発想ですね。ですがこの時代、お客さんはストーリーを求めて足を運んでくれると考えます。良いお湯というだけではもう来てくれません。

――砂和ちゃんはちょうど合致していたのですね。

古林:「温泉むすめ」しかもうなかったというのが正直なところですね。これまでやってきたイベントで、どれだけの経済効果があっただろうか? 逆にイベントをすることで街が疲弊しているだけじゃないか?と思っていまして。実際、一時期には60軒もあった宿が、今では10数件にまで減ってしまっています。

――露天風呂として西の横綱と名高い「砂湯」にも独特なストーリーはあるように思います。無料混浴露天風呂なんてそうそうお目にかかれないですよね。

古林:確かに、砂湯は湯原温泉の代名詞といって差し支えないでしょう。ただ、その場所の持つストーリーに振り回されてしまっては元も子もないと言いますか、砂湯では少なからずトラブルが起きていますし、掃除に来る人もどんどん減っています。

――掃除はどなたがされているのですか?

古林:完全にボランティアです。お風呂は使えば汚れます。誰かが掃除をしなければいけません。ですが砂湯は無料で開放されていますから。

――街の人の支えで運営されているんですね。

古林:SNS上などでも、よくない噂が多かったんですけど、最近は砂和ちゃんの話題で湯原温泉は盛り上がっています。砂湯を支える一人に砂和ちゃんもなってくれていると感じますね。


◆美作三湯としての温泉むすめ

――美作三湯での同時観光大使就任の立役者こそ、古林さんであると伺いました。

古林:立役者なんて大層なことをしたつもりはありませんよ(笑)。美作三湯協議会というのがもともとあったんです。とはいえ残念ながら機能停止してしまっていて。あれ、これ使えるんじゃない?と。

――温泉むすめには広域連携という可能性もありますよね。

古林:飯坂温泉に視察に行ったとき、ファンの人と温泉地の関係者が一緒に、いわき湯本温泉まで遊びに行っているという話を聞いて。正直、「???」となりました。意味が分かりませんでしたね。それを紐解いてみると、現地の人、ファンの人。関わる皆さんが温泉むすめを共通項として、同じ方向を向いていることが分かりまして。これを美作三湯でもやってみよう。というのが始まりでしたね。

――流石のフットワークの軽さですね。

古林:そんなことはありませんよ(笑)。まずは奥津温泉に説明をしに行ったんです。当時の奥津温泉にもパネルは置いてありましたが、隠れた才能が多く、かがみちゃんのPR方法が分からなかったそうなんです。それ以上手を出せず、広げられずいました。なので、湯原温泉での取り組みを通して分かったこと。例えば人の集め方とか、いいファンが来てくれてるとか。そういったことを説明しに行ったんです。

――効果はいかがでしたか?

古林:気付いたらオムライス屋さんに置かれていました。そして、ちょうどその時に飯坂温泉でキャラクターの誕生祭の話を聞いてきまして。それいいな、と。それで誕生祭をやろうとなったときに湯郷にも声をかけたんです。

――これで三湯のメンバー全員が揃ったわけですね。

古林:次第にLINEグループができてきて。そこからは開催までトントン拍子でした。

――すごくいいイベントになったそうですね。

古林:このご時世ですから、不安は相当大きかったです。しかしそんな思いとは裏腹に、ポストカードは50枚くらい出ましたね。

――ファンの方からのプレゼントやお祝いもすごかったとか。

古林:温泉むすめのファンの方たちは手間を惜しまないということを実感しました。最近のスタンダードは、全部用意してもらってお金を払うというのが多いように思っていましたから。それも別に悪くはないですが、つまりはお金で解決しています。ですが、誕生祭の様子などを見ていると、その手間だったり準備だったりの時間も含めて、温泉むすめのファンの方たちは過程を楽しんでくれているんです。

――いたるところで聞くことなのですが、もはやただのファンではないですよね。

古林:ただお金を払って終了ではなくて、もっとよくなるために協力してくれる。それだけ良くしてくれる人だと、こちらとしても自然に距離も近くなります。私が温泉むすめに取り組むモチベーションにつながったのもここが一番大きいです。この人たちに何ができるだろうかという思いですね。

――湯原温泉のほかの店舗さんでもそうなのでしょうか?

古林:協力してくださっている店舗では、キーホルダーだけでなく、例えば、カステラも買っていかれます。そうすればおばちゃんも気分がよくなって、カステラの裏話なども始まる。酒屋さんに至っては、それまではお店のハッシュタグがなかったのに、気づいたら自然に生まれていたくらいで。それがどんどん広がっていって、ファンの人がさらに広げていったんです。

――温泉むすめに限らず、ただお金儲けをしたいだけの人だな、というのはすぐに見抜かれますよね。

古林:そうですね。結局は人付き合いですから。温泉むすめのファンを、美作三湯のファンを、ひいては湯原温泉のファンを増やしたい。と思ったら自然と今の形に落ち着いていました。商売が下手なんですよね、僕(笑)


◆これからのこと

――古林さんの座右の銘や好きな言葉はありますか?

古林:好きな言葉と言いますか、『おれには、これしかないんだ!だから、これがいちばんいいんだ!』というセリフがありまして。自分たちに与えられたもので、できる限りベストを尽くしていきたいと思っています。

――取り組んでいかれる中で、大事にされていることはありますか?

古林:自分がお殿様になるのは避けなければいけませんね。ファンの方、街の方、運営であるエンバウンドの方。とにかくたくさんの方に助けられていますから。それに、砂和ちゃんもですね。

――まだまだ広がっていく途中の『温泉むすめ』プロジェクトかと思いますが、進めていく難しさにはどのようなものを感じますか?

古林:『温泉むすめ』をきっかけに足を運んでくださる新しいお客さんとの付き合い方ですね。いわゆるオタクと呼ばれる人たちですが、だからといってそのもてなし方は他のお客さんとなんら変わりはありませんし、お客さんであることにも変わりありません。ですから、マーケティングの観点として、お客さんの希望や期待に沿うものを提供していけるか。ここが難しい。確かに、ファンの方は各施設にきて、グッズを買っていってくれます。ですが、ただ『グッズを買いに』来ているわけではない。ということを理解していかないといけません。

――次はどんな形で楽しませてくれるのか、非常に楽しみですね。

古林:いずれにせよ、一過性に終わらず、岡山県をずっと沸かし続けていけるような存在になっていければと思います。再三になりますが、とにかくたくさんの方が協力してくれていますから。

――いろいろな人との協力の先、湯原温泉のこれからのストーリーはどうなっていくのでしょうか。

古林:温泉むすめでお客さんが来てくれているからと胡坐をかくことはできません。『温泉むすめ』は「手段の一つ」であるべきだと思います。今、そのとき、自分にはなにができるか。なにが使えるか。『訪れてくれるお客さんに喜んでもらいたい』という「本来の目的」をブレさせることなく続けていくべきだと思っています。

――古林さんの目的が明確だからこそ、ファンの方も足を運ぶのかもしれませんね。

古林:ありがたい限りです。こんな交通の便もよくない場所までわざわざ来てくださる方々です。このつながりをブームで終わらせてはいけません。いずれは若い人たちが自由な表現をできるクリエイターの温泉地として、みんなでカオスになっていきたいですね。

取材&文 野口大智

『温泉むすめ』と共に歩むシリーズはこちら

SHARE

一覧に戻る

温泉むすめとは?

温泉むすめとは、全国各地の温泉をキャラクター化して、
アニメーションや漫画、ゲームなどのメディア展開を行いつつ、
ライブ・イベントで全国行脚して日本中をみんな一緒に
盛り上げちゃおうというプロジェクトなのじゃ!

温泉むすめ ANIME アニメ EVENT イベント LIVE ライブ GAME ゲーム COMIC コミック