story おはなし

「誕生!LUSH STAR☆」第1話 歩くエンターテイナー、熱海初夏! -前編-

あたしには夢がある。
みんながドキドキワクワクするような、
わあーってびっくりして、ぱあーって笑顔になるような、
そんな素敵なショーをする夢が。
……そう。熱海の花火みたいに――。

「よしっ。こんなもんかなー!」

 春休み、誰もいない『温泉むすめ師範学校』の正門前広場。
 満開の桜のもと、掲示板に最後のポスターを貼り終えたあたしは、ふうと息を吐いた。一仕事を終えてなんとも言えない達成感で満たされていると、頭の上にいる銀鳩の大丸が「おつかれさま」とばかりにつついてくる。

「たくさんの子が入ってくれるといいね、大丸!」

 そう言って、あたしは貼ったばかりの勧誘ポスターを見た。
 そこには、シルクハットから飛び出す大丸のイラストとともにこんな文章が書いてある。

奇術研究部 春の新入部員 大・大・大募集中!
未来のMs.マーリックはキミだ!
入部希望・質問・手品や宴会のご依頼は、部長の熱海初夏まで!

あと数日して新学期が始まると、師範学校は一気に慌ただしくなる。各部活の部員たちが一人でも多くの新入生をゲットしようとしのぎを削るのだ。師範学校では部活動への入部は強制ではなく、地元の温泉地の手伝いをするために帰宅部の子が多いから、新入部員の争奪戦はひっじょーに激しい。
 それでも、我らが奇術研究部は負けちゃいられない!
 なぜなら、この三月に先輩たちが卒業したことで、部員が――あたし、熱海初夏和倉雅奈ちゃんの――二人だけになってしまったからだ!
 師範学校では、部員が最低でも五人はいないと部活動として認めてもらえない。ということは、この春に新入部員が三人以上入部しなければ、奇術研究部は自動的に『奇術同好会』に降格してしまうわけで。そうなったら消耗品の補助(大丸たちのエサとか)はもちろん、部費ももらえなくなってしまうわけで……。
 何よりあたしが一番辛いのは、部室を取り上げられてしまうこと!
 奇術研究部の部室は、夏は暑くて冬は寒い。窓の建て付けは悪いし、ロッカーの鍵は一つ壊れてる。
 決して快適とは言えない環境だけど、あたしは優しくて頼もしい先輩たちとあそこで手品を披露しあったり、お菓子を食べたり、マンガを回し読みしたりして、たくさんの時間をともに過ごした。あの部室はあたしにとって、忘れられない思い出がつまった大切な場所なのだ。絶対に失いたくない!

 このピンチを何としても乗り越えるため、あたしは一計を案じた。
 それが今の作戦――「春休みの師範学校に忍び込んで、フライングして勧誘ポスターを貼っちゃおう作戦」である。ちょっとズルいけど、こうすればきっとたくさんの新入生の目に留まるはず!

「神さま仏さまスクナヒコさま。やる気のある新入生をよろしくお願いします! ついでにいつか熱海で素敵なショーをしたいので、そっちもよろしくお願いします!」

 これがホントの神頼み! なーんて内心ツッコミを入れつつ、ポスターに向かって柏手を打つ。
 あたしは今でも覚えている。小さな頃、おとうさんとおかあさんに連れられて観に行った「Ms.マーリック」のマジックショー。熱海サンビーチをバックに、次から次へとマジックを披露する彼女はとても大きく、そして輝いて見えた。クライマックス、熱海の海にどっかーんと上がった花火はすごい迫力だった!
 その瞬間、あたしの夢は決まった。
 いつかあたしも彼女のように熱海で素敵なショーをして、そしてゆくゆくは――
 温泉むすめイチのエンターテイナーになる!!
 まだまだ小さくて未熟者なあたしだけど、それが今の夢なのだ!

「……おや?」

 入念にポスターを拝んで帰ろうとすると――おかっぱ頭に丸い眼鏡をかけた女の子が、少し離れた場所からポスターを見ているのに気付いた。
 高等部では見ない顔だ。ということは……新入生!?
 よぉぉっっし!! さっそくスカウトだっ!!
 あたしはすぐさまダッシュで女の子のもとに駆けつけた!

「奇術研究部へようこそー!!」
「ひぃっ!?」
「奇術研究部部長、四月から二年の熱海初夏です! この鳩は大丸!」
「あ……。ぎ、銀山心雪……。この春から高等部一年生です……」

 そう言って、銀山心雪ちゃんと名乗った彼女は驚いた拍子にズレた眼鏡をあせあせとかけ直した。

「心雪ちゃん、手品とかマジックに興味あるの?」と、あたしは身を乗り出す。驚かせちゃったのは申し訳ないけど、このチャンスを逃す手はない!
「あたしたちの部活、新入部員を大・大・大募集中なんだ!」
「はあ……」
「あなたなら未来のMs.マーリックになれるよ!」
「……」
「だからね、奇術研究部に――」
「ごめんなさい」
「え。」

 って秒で断られたーーー!?!?
 あっ、でもひょっとしたらあたしの聞き間違いかも? うん、きっとそうだ!
 なんて考えていると、

「ちょっとポスター見てただけです……。えっと、紛らわしいことして本当にごめんなさい……」

 心雪ちゃんは深々と頭を下げながら駄目押ししてきた。
 うっ。取り付く島もない……。いきなりスカウト失敗! でも仕方ない! 話を変えよう!

「そっかそっか! ごめんね! じゃあ、今日は何しに学校に来たの?」
「あ、はい……。えっと、下見に……」
「下見? 師範学校の?」

 自信なさげな心雪ちゃんを見て、あたしは首を傾げた。師範学校は小中高一貫校だし、高等部に進学しても校舎が変わるだけだと思うけど、下見なんて必要かな?

「あ、もしかして心雪ちゃん、他の中学校からの編入生?」
「いや、初等部から師範学校の進学組です……。でも私、新しい環境に慣れるのに時間がかかるタイプだもんで……緊張すると震えちゃうし……」

 ほうほう。なるほど、そういうことかー。
 確かに、心雪ちゃんは今もほっぺたを赤く染めてうつむいている。あたしは人見知りをしないタイプだから、新学期のクラス替えも楽しみだけど、心雪ちゃんみたいに不安になっちゃう子がいるのもよーく分かる。

「よし、心雪ちゃん!」
「は、はひっ!?」
「こっちこっち! あたしの左手にご注目ください!」
「え……?」

 ならば! あたし、熱海初夏の出番だ!
 心雪ちゃんに笑顔で新学期を迎えてもらうため、あたしがとっておきの手品の仕込みを始めた――その時だった。

「熱海初夏っ!! 何やってるんだ!!」
「!! ……せっ、先生!?」

 振り返ったあたしはぎょっとした。なんと、生活指導の先生が鬼の形相で近付いてくる!
 えっと、これはもしかして。怒ってるってことは――。

「部活動の勧誘ポスターはまだ貼っちゃダメだろうが!! 全部はがしなさい!!」

 あっちゃー! やっぱりポスターのことだったかーーっ!! 熱海初夏、絶体絶命の大ピンチ!!
 しかーし、バレた時のことも想定ずみ! あたしはとっさに先生の後ろを指差してこう言った!

「先生っ! 後ろにスクナヒコさまが!」
「えっ!? あ、お疲れ様ですスクナヒコさま――って、誰もいないじゃないか!」
「今だっ! 心雪ちゃん!」
「へっ?」

 あたしは首を傾げている心雪ちゃんの手を取ると、近くの鳥居に向かって走り出した!
 行き先はもちろん!

「いざ熱海へ!! にーーげろーーっ!!」
「へえええぇぇぇっ!?!? なんで私までーーーっ!?!?」



歩くエンターテイナー、熱海初夏! -後編-はこちら


著:黒須美由記

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