story おはなし

温泉むすめ伝「志摩茉莉也の日記」

4月1日(木) 天気:晴れ

 今月から始まる新学期を前に、日記帳を新しくした。
 わたしは今年で16歳。『温泉むすめ師範学校』高等部1年生です。よろしくお願いします。

 日記帳の1ページ目なので、いつもどおり、まずは温泉むすめとしての心構えを書き留めておきます。
 伊勢志摩は海沿いのリゾート地。なので、お客さんがたくさん来てくれるのは夏の季節。
 でも、温泉があれば春も秋も冬も来てくれる人がいる。志摩の温泉はそういう目的で開発が進められた。
 リゾート地の温泉開発にはよくある理由。みんな、温泉が大好きなんだね。
 そのおかげで、わたしは温泉むすめとして生を受けることができました。
 茉莉也。あなたは、そのことへの感謝を忘れずに、頑張ってみんなの想いに応えてあげてね。
 みんなから愛してもらえるような、そんな温泉むすめになって、どんどん幸せになろうね。

<追伸>
 みんなからもっと愛してもらうには、やっぱりニックネームがあったほうがいいかな?

4月5日(月) 天気:晴れ

 『温泉むすめ師範学校』での新学期が始まった。
 わたしは1年A組になりました。いきなりびっくりしたのは、早速遅刻しかけて窓から教室に飛び込んできた子がいたこと。鬼怒川日向さんという温泉むすめでした。

 それで、ビッグニュースがあります。
 なんと……わたし、学級委員長になっちゃった!
 最初はそんなつもりじゃなかったんだけど、始業式を終えて、みんなで教室に戻ってきて、「まずは委員長を決めましょう」って先生が切り出したんです。「ぜひ立候補してね」って。
 でも、委員長のお仕事なんてやりたい人いないよね。高等部1年生、他の学校から編入してきた子も多いし、お互いの顔と名前も一致しないし。中等部からエスカレーター(?)で上がってきた子たちはひそひそと「あんたがやりなよー」「え、無理ぃ」とか言い合ってたりして、その声が教室に響いちゃって、ますますみんなが手を挙げづらい雰囲気になってしまってました。
 しーん……。
 と、重苦しいような、もどかしいような空気が、教室を支配したの。
 時計の秒針の音だけが妙に大きく聞こえるなか、ふと顔をあげたら、先生がすごく困った顔をしてた。
 たぶん、みんなも困ってたと思う。分かるかな、なんかタイミング逃しちゃった感じ。勢いがあれば「はい!」って手を挙げられるんだけど、こういう空気になっちゃうと今さらどうしようもないよね。
 それで思ったの。ここはわたしが頑張らなくちゃ、って。
 控えめに手を挙げたらみんな喜んでくれたし、先生は褒めてくれたし、嬉しかったな。
 志摩茉莉也、みんなから愛される委員長になれるようにがんばります。

<追伸>
 ただ、クラスのみんなからは「委員長」っていう役職名で呼ばれるようになっちゃって……。
 わたしがイメージしてたニックネームからは遠のいちゃいました。

4月7日(水) 天気:くもり

 今日は、放課後に初めての「学級委員長会」が開かれた。
 皆さんの名前を忘れないようにメモ。
  1年A組はわたし、1年B組は河口湖多佳美さん、1年C組は宮浜仁佳さん、
  2年A組は秩父美祭さん、2年B組は阿寒湖ぴりかさん、2年C組は伊香保葉凪さん、
  3年A組は那須一与さん、3年B組は湯原砂和さん、3年C組は玉造彗さん、
 以上の温泉むすめのみなさんでした。

 みんなで自己紹介をしたあと、生徒会長の道後泉海さんから委員長会の意義と仕事内容の説明があった。
 そのあと、今年の元旦にスクナヒコさまが発表した『温泉むすめ日本一決定戦』の話題で盛り上がった。
 「日本一の温泉むすめを決める大会を開く」って言ってたけど、まだ種目やルールは決まってないらしいです。
 日本一になれば、わたしも志摩の温泉ももっと愛してもらえるかな?

<追伸>
 学級委員長の皆さんはしっかりした人ばかりで、嫉妬。自己紹介のときに緊張して噛んじゃうくらい。
 「しまままりやです」って言っちゃったような気がする。「ま」の数がひとつ多い……。

4月12日(月) 天気:晴れ

 週明けの朝礼で、『温泉むすめ日本一決定戦』の種目がいきなり発表された。
 なんと、わたしたち温泉むすめがアイドルになって、お客さんをどのくらい「沸かせた」のかを競うらしい。
 素敵な企画だと思った。アイドルのことはよく分からないけど、わたしもやってみよう。
 志摩温泉を愛してもらうために、わたしも愛してもらうために、できることは何でもやらないとね。

 それで、早速「学級委員長会」(玉造彗さんは欠席だった)。
 道後泉海さんから「日本一決定戦にエントリーしたい温泉むすめを取りまとめて」って言われたけど……わたしのクラスの反応はいまいちだった。まだピンときていないみたい。
 鬼怒川日向さんはずーっとつまんなさそうにしてるし、嬉野六香さんと伊東椿月さんはマイペースに過ごしているし、上諏訪雫音さんと下諏訪綿音さんは舘山寺萌湖さんを交えて機械の話をしていた。
 委員長決めのときにも感じたけど、わたしのクラスはゴーイングマイウェイな子が多いのかな?
 自分の生き方があるのは羨ましいなって感じた月曜日でした。

<追伸>
 嬉野六香さんと伊東椿月さんの会話が聞こえてきました。
 嬉野六香さんはわたしのことを「委員長ちゃん」と呼んでくれているみたいです。「ちゃん」付け、嬉しいな。
 伊東椿月さんはニックネームのことを「愛称」と言っていました。「愛称」。「愛」を示す呼び方。素敵だな。
 わたしも早く自分の「愛称」を見つけなくちゃ。

4月15日(木) 天気:雨

 思いついた、思いついた、思いついた!
 温泉に浸かってずーっと自分の名前を繰り返し呟いてたら思いつきました!
 志摩茉莉也、しままりや、志摩茉莉也、しままりや、志摩茉莉也。しままりや。志摩茉莉也。しままりや。
 “しまま りや”だから噛んじゃうんです。同じひらがなが二回続くと、音としては発音しにくいんです。愛情をぎゅっと籠めるように、こうやって縮めてしまえばいいんです。

 しまりあちゃん。

 かわいい愛称だと思いませんか?
 「志摩」の音も残ってる。「や」を「あ」に変えたから、文字の並びも素敵です。「や」より「あ」の方が、口がぱっくり開く感じがして親しみやすいと思うんです。
 わたしを愛してくれてることを証明する呼び方。愛称。それが「しまりあちゃん」。
 みんな使ってくれるかな? 使ってほしいな。ううん、使ってもらえるように頑張らなくちゃ。
 というわけで――今日からわたしは、温泉むすめで、学級委員長で、アイドルのしまりあちゃんです。

 この日記を読んでくれている、そこのあなた。あなたもそう思いますよね?
 もしわたしのことを愛してくれてるなら、今すぐその場で呼んでみてね。「しまりあちゃん」って。

著:佐藤寿昭

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