温泉むすめショートストーリー 第3話【復刻】
□温泉むすめ師範学校・職員室。
来瑠碧「……ぐすん」
朋 依「うう……」
教 師「月岡さん、白骨さん。どうして呼び出されたのか分かってますね?」
朋 依「も、もちろん分かってんよ先生! あたしたちのアクセのことだよな?」
教 師「その通りです。あなたたちはまだ高校生。だというのに、月岡さんは大人みたいにお化粧し、高価そうな宝石のアクセサリーをジャラジャラとつけていますよね?」
来瑠碧「ぎくっ!」
教 師「白骨さんに至っては、ええと……なんですかそれは? ガイコツ? ネコ耳?
とにかく、いくら個性が尊重される本校といえど限度を超えています!」
朋 依「で、でもな先生。これはあたしたちのキャラってやつで……」
来瑠碧「――うえーん! ごめんなさーいっ!」
朋 依「えっ、来瑠碧!?」
来瑠碧「このアクセとこのアクセ、あとこれも外します! もう学校にはつけてきませんっ!」
朋 依「ええっ!? どうしたんだお前!? いつもはアクセ大好きって……!」
教 師「ふむ……。月岡さんは反省しているようですね。
さて、白骨さんは? 『あたしたちのキャラ』が何ですって?」
朋 依「ひぃっ! なんでもないっす!」
教 師「よろしい。あなたたちは温泉むすめ。あなたたちの振る舞いひとつで地元の温泉地の印象が変わることもあるんですよ。もっとその自覚を持って――」
□同・廊下。
来瑠碧・朋依「……失礼しましたー……」
――ガラガラ、ピシャン。
来瑠碧「あーもー、疲れたーっ! 反省してますって言ったのに、話ながーいー!
ねー、朋依……朋依?」
朋 依「んぐ、んぐ、んぐ――ぷはぁーっ!!」
来瑠碧「うわっ、飲泉してる……」
朋 依「っかぁーっ!! マジむかつくあのクソザコ教師!!
こっちだって訳もなくネコ耳だのピアスだのつけてるわけじゃねーっての!! 生徒の話を聞こうともしねーとか教師失格だぞ、失格! 辞めちまえそんな仕事!」
来瑠碧「……って、扉に向かって言ってもねぇ」
朋 依「な、なんだよ来瑠碧」
来瑠碧「朋依さー。それ面と向かって言わないと超ダサいやつだよ」
朋 依「は!? め、面と向かって……? い、言えるわけないだろ!」
来瑠碧「なんで? もしかしてビビってんの?
そーいえば、朋依が飲泉する時って弱気になりそうなのを隠すときだもんね! ビビり骨朋依! きゃはははっ!」
朋 依「び、ビビってなんかねーし!!
ほら、あれだよ! あんなやつ言い負かすのなんて余裕だけどな、他の先生もいる職員室で論破しちまったら逆恨みされそうだろ? だから黙ってたんだよ!」
来瑠碧「おー! イキった! イキリ骨朋依になった!」
朋 依「こ、こいつ……! なにか反論を……いや、その前に飲泉……っ!」
来瑠碧「はい、どーぞ♪」
朋 依「お、サンキュ!
んく、んく――――ブーーーーッ!?!? な、なんだこりゃあ!?」
来瑠碧「きゃはははははっ! まずかったでしょー。宇宙一まずいと評判の月岡温泉の硫黄泉だよーっ!」
朋 依「~~ッ!! あ、あたしの飲泉まで愚弄しやがったなテメー!」
来瑠碧「……ん? おっと! この足音は!」
――ささっ。
朋 依「もーガマンならねー!! おい来瑠碧、表に出ろ!
……あれ? 来瑠碧?」
――ガラガラッ。
教 師「……白骨さん、職員室の前で何を騒いでいるのですか?」
朋 依「ひいっ!? せ、先生!?」
教 師「どうやらまだ反省が足りないようですね。もっとお話しましょうか?」
朋 依「そ、そんなことないっす! めっちゃ反省してます!
し、失礼しまぁーす!!」
♨ ♨ ♨
来瑠碧「……ともえー。ごーめーんー!」
朋 依「いやー、ないわ。あそこで一人だけ隠れるのはない」
来瑠碧「しょーがないじゃん!
ヤバい予感を感じたら体が勝手に動いちゃうんだってば! 反射と同じなの!」
朋 依「それだけじゃないぞ! 説教されてた時も一人だけ『アクセやめます!』とか言い出しただろ! あれが抜け駆けじゃなくてなんなんだよ!」
来瑠碧「あー。あれはね。やめますって言ったアクセはちょうど飽きてきたやつだったし、ちょうどいいかーって思って」
朋 依「ってことは、明日からは……」
来瑠碧「別のアクセつけてくるよー♪」
朋 依「全然反省してねーじゃねーか! キレるぞコラ!」
来瑠碧「だからごめんって! お詫びにひとつだけ朋依の言うこと聞くから!」
朋 依「お、マジ?」
来瑠碧「まじまじ!」
朋 依「へへっ……。そっかー、そうだな。じゃ、動画撮らせてくれたら許してやるよ」
来瑠碧「え、動画? そんなのでいいの?」
朋 依「ああ」
来瑠碧「ホント!? じゃあ宇宙一かわいい動画にしてあげるね!
どういうシチュにすればいい? セリフは?」
朋 依「いや、こっちの条件は一つ。
来瑠碧、お前が――『すっぴん』で出演することだ!」
来瑠碧「えっ……。
ええーーーーっ!? す、すっぴん!?」
朋 依「そうだ! 来瑠碧はいっつもナチュラルメイクばっちりだからな! すっぴんがどんな顔かみんな気になってるんだぞ!」
来瑠碧「ダメダメ! それは事務所NGです!」
朋 依「事務所ってなんだよ!?」
来瑠碧「とにかくダーメ! たとえAdharaの仲間でもあたしのすっぴんは見せませーん!
こないだ黒川温泉でやった合宿の時だって、お風呂上がりですっぴんの時は顔パックしてみんなの前に出てったでしょ!」
朋 依「あ、ああ。あれは不気味だったな……。桃萌とか和とか震えてたぞ。
っていうか、だからこそだよ! おら、撮らせろ!」
来瑠碧「きゃー! ほっぺたひゅかんでもお化粧は剥がせにゃいってばー!」
朋 依「うるせー! 早く化粧落としてこいや!」
来瑠碧「きー! 無理してパンクキャラ作ってる痛い子のくせに!」
朋 依「は!? お前いまそれ関係ないだろ!」
来瑠碧「関係あるもん! そっちこそシラフ見せろー!」
朋 依「あたしは根っからのパンクだっての!」
来瑠碧・朋依「「ぐぬぬぬぬ……!」」
姫 楽「――あなたたち、何をしているのかしら」
来瑠碧・朋依「「へっ……?」」
姫 楽「ここは廊下よ。往来の邪魔になるわ」
来瑠碧「き……きらら!?」
朋 依「姫楽さんッ!? どうしてここに!?」
姫 楽「職員室の帰り。来瑠碧と朋依が呼び出されたと聞いて、先生のところへ謝罪と話し合いに行ってきたの」
来瑠碧「ええー!? きららが代わりに謝ってくれたの!?」
朋 依「そ、そんな……。あたしたちのせいなのに、わざわざ?」
姫 楽「Adharaは家族。だから来瑠碧や朋依の問題は私の問題でもある。当然のことよ」
朋 依「き、姫楽さん……!」
来瑠碧「ありが……ふえっ!?」
来瑠碧(き、きららの人差し指が……あたしの唇に……!)
姫 楽「――返礼はステージで。ね?」
来瑠碧「う、うんうん! 絶対ね!」
朋 依「おお……。来瑠碧があんな素直に……」
姫 楽「あ、そうそう。
先生とよく『話し合って』、その格好があなたたちの個性であることを理解していただけたわ。明日からも胸を張って登校しなさい。それじゃあね」
――カッ、カッ、カッ、カッ。
来瑠碧・朋依「か……」
来瑠碧・朋依「かっこいいーーっ!!」
来瑠碧「聞いた!? あたしたち明日からもアクセつけてきていいって!」
朋 依「さ、さすが姫楽さん……! あの人みたいに中身がきちんとしてりゃ、あたしたちみたくキャラだのアクセだので外面を取り繕う必要もねーんだろうな……」
来瑠碧「確かに……。
……うん! お礼はステージでって言われちゃったし、あたしたちもアイドル活動頑張ろっか!」
朋 依「ああ! 中身がぐっと詰まった女になってやんよ!」
来瑠碧「骨密度が高いってことだね!」
朋 依「そう、まさに強い骨朋依……って、そういう意味じゃねーから!」
著:佐藤寿昭