story おはなし

温泉むすめショートストーリー 第8話【復刻】

□温泉むすめ師範学校・放課後

 

――キーンコーンカーンコーン♪

 

那菜子「今日も一日たくさん勉強したべさ~。ねえ結衣奈ちゃん、彩耶ちゃん、今日一緒に――って、あれ? いない……」

生 徒「二人なら帰ったよ。結衣奈ちゃん、湯もみショーの準備で忙しいんだって」

那菜子「え~! 全然気づかなかったべさ……ん? じゃあ彩耶ちゃんは?」

生 徒「彩耶ちゃんは何だろ? ずいぶん急いでたけど。それじゃ、また明日ね」

那菜子「うん、また明日!……はぁ。今日はバレンタインデーだから、三人でチョコレートケーキでも食べて帰りたかったのにな……」

 

泉 海「那菜子。ちょっとよろしいですか?」

 

那菜子「泉海ちゃん! どうしたんだべか?」

泉 海「彩耶に話があるのですが、もう帰りましたか?」

那菜子「彩耶ちゃんなら、わたしも捜してたところだべさ。ちょっと電話してみるね」

 

――prrrr。

 

那菜子「あれ~? 出ないっちゃね」

泉 海「まあ。彩耶にしては珍しいですわね」

 

かんな「彩耶ちゃんがどうしたの?」

 

那菜子「ひえぇっ!?」

かんな「あー。那菜子ちゃんだぁ」

那菜子「へっ?……あ~!」

泉 海「貴女は確か……」

かんな「温泉むすめ師範学校高等部1年、強羅かんなだよ♪ かんな、彩耶ちゃんを捜してるんだぁ」

泉 海「奇遇ですわね。わたくしたちも彩耶を捜してますの」

那菜子「連絡が取れなくて困ってるんだべさ~」

かんな「……はぁ。やっぱり……」

那菜子「やっぱり?」

かんな「今日バレンタインデーだから、彩耶ちゃん、チョコを持った女の子たちから逃げ回ってるのかも……」

泉 海「でもバレンタインは、女性が男性にチョコレートを贈る日なのでは?」

かんな「今は、女の子が女の子にあげる『友チョコ』が人気なんだよ♪」

泉 海「と、ともちょこ?……」

かんな「彩耶ちゃん、昔から人気あったけど、SPRiNGSの活動を始めてから女の子たちの人気がすごいの。かんなの地元の子たちもみんな、彩耶ちゃんにチョコ渡すんだっていってて……」

那菜子「それじゃ、今日会うのは難しいのかなあ。彩耶ちゃんとチョコレートケーキ食べたかったのに……」

かんな「彩耶ちゃんにチョコ渡したかったのに……」

 

泉 海(那菜子もかんなさんも、とっても寂しそう。バレンタイン……わたくしには馴染みのない行事だけど、二人ともよっぽど楽しみにしてたのね……それなら)

 

泉 海「彩耶を捜しに、地元の箱根湯本まで行ってみましょう」

那菜子「え!? でも、泉海ちゃん忙しいんじゃ……」

泉 海「目の前でそんな顔されたら、ほうっておけませんわ」

那菜子「……リーダー!」(うるうる)

かんな「リーダー?」

那菜子「泉海ちゃんはSPRiNGSの頼れるリーダーだべさ!」

かんな「なるほど~」

泉 海「や、やめてください、その言い方……ほら、さっそく行きますわよ!」

那菜子「えへへ……はいだべさ~!」

 

□箱根神社・本殿前

 

那菜子「うわあ……チョコを持った女の子たちがいっぱいだべさ……」

泉 海「みなさんここで彩耶が来るのを待っているのですね。でもこれでは、一般の参拝客が困ってしまいますわ」

那菜子「かんなちゃん。今日は彩耶ちゃんにチョコ渡すの難しいかも……って、あれ!? かんなちゃんがいないべさ!」

泉 海「大変ですわ! かんなさーん!」

 

♨         ♨         ♨

 

ファン1「彩耶さま早く帰ってこないかしら?」

ファン2「待ちきれな~い!」

かんな「はぁ。彩耶ちゃんを捜してたら人波に押されて、那菜子ちゃんたちとはぐれちゃった。どうしよう……」

泉 海「かんなさん! ここにいたのですね」

那菜子「突然いなくなるからびっくりしたべさ~」

かんな「生徒会長! 那菜子ちゃん! ご、ごめんなさい。かんな、彩耶ちゃんを捜してたら人波に押されて、それで……」

泉 海「言い訳は無用! 一人で勝手な行動をとらないこと。これは集団行動における基本中の基本ですわよ」

かんな「!!」

那菜子「い、泉海ちゃん。そこまでいわなくとも~」

泉 海「ですが……貴女がそれほどまでに彩耶を好きでいてくれること。そんな彩耶がSPRiNGSにいること……わたくしはSPRiNGSの一員として誇りに思います。ありがとう」

かんな「……生徒会長!」(うるうる)

那菜子「……リーダー!」(うるうる)

泉 海「そっ、その言い方やめてといっているでしょう!?」

那菜子「えへへ。別にいいべさ~。だって今わたし、泉海ちゃんがリーダーのSPRiNGSにいられてよかったなあって、心から思ったんだもん!」

泉 海「!……那菜子……」

ファン1「ねえ今、SPRiNGSって聞こえなかった?」

ファン2「あっ、SPRiNGSのメンバーだ! もしかして彩耶さまの居場所知ってるんじゃない!? 聞いてみようよ!」

 

――わらわらわら。

 

那菜子「へっ? あの~……」

泉 海「あっという間に囲まれてしまいましたわ……」

かんな「怖いよぉ……」

ファン1「あの! SPRiNGSのメンバーの方ですよね?」

ファン2「彩耶さまどこですか?」

ファン1「私たち、彩耶さまにチョコ渡したいんですけど!!」

那菜子「ど、どうしよう? 泉海ちゃん~」

泉 海「……ご」

那菜子「ご?」

泉 海「ごめんなさい!!」

二 人「「……え」」

泉 海「もたもたしてないで逃げますわよ、二人とも!」

二 人「は、はいぃ!!」

ファン1「逃げた!!」

ファン2「みんな、追いかけるわよ!!」

三 人「「「逃げろ~~~!!」」」

 

□元箱根港

 

ファン「待って~!」

那菜子「はぁはぁ。泉海ちゃん、どこに向かってるべさ!?」

泉 海「元箱根港ですわ! もうすぐ海賊船が出航するはずです。それに乗ってしまえば、きっと……!」

かんな「あ! 海賊船だよ!」

三 人「「「待って~~~!!」」」

 

□芦ノ湖の湖上・箱根海賊船の中

 

泉 海「な、なんとか逃げ切れましたわ……」

那菜子「みんな目が血走ってて怖かったべさ……」

かんな「かんな、こんなに走ったの久しぶりだよぉ……」

三 人「「「……はぁ~……」」」

泉 海「!? 今……」

かんな「ハモっちゃった……」

那菜子「――ぷっ。あはははは!」

二 人「「!?」」

那菜子「疲れた。でも――楽しいっちゃね!」

泉 海「!……ふふっ」

かんな「ふふふ」

三 人「「「あはははは!」」」

 

□箱根町港・カフェ前

 

那菜子「着いた! ホッとしたら、なんだかお腹空いちゃったべさ~」

かんな「かんなも~」

泉 海「確かに……あら? こんなところにカフェが……」

店 員「いらっしゃいませ♪ 手作りケーキと自家焙煎珈琲はいかがですか? 本日はバレンタイン特別メニュー、ホットチョコレートもご用意してますよ!」

那菜子「ホットチョコレート!? なんだかあったまりそうだべさ~!」

かんな「美味しそう♪」

泉海「ほっとちょこれーと……」

 

泉 海(バレンタインなんて、わたくしには馴染みのない行事だと思っていたけれど――。

たまにはこんな日もいいですわね)

 

泉 海「ではホットチョコレートを3つ。席まで案内していただけますか?」

那菜子「えっ?」

泉 海「ごちそうしますわ。今日という日が、賑やかで楽しい一日になりましたから……そのお礼に」

那菜子「泉海ちゃん……」

泉 海「ホットチョコレートを飲んでひと休みしたら、もう一度、彩耶を捜しに行きましょう。まだ時間はありますわ」

かんな「泉海ちゃん……」

那菜子「――うん。やっぱり泉海ちゃんはリーダーっちゃね!」

泉 海「はぁっ?」

かんな「うんうん、リーダーだよ♪」

泉 海「か、かんなさんまで……恥ずかしいからやめてください」

二 人「「リーダー! リーダー!」」

泉 海「も、もう。だからやめて……」

二 人「「リーダー! リーダー!」」

泉 海「やめ……」

二 人「「リーダー! リーダー!」」

泉 海「やめ~~~い!!」

(おわり)

著:黒須美由記

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