story おはなし

温泉むすめショートストーリー 第14話【復刻】

□福島県・飯坂町公民館、和太鼓教室――。

――ドドン、ドドン、カッ、ドンッ!

 

生徒たち「ヤァーッ!」

真  尋「おつかれ! みんな、今日はこれで終わりだ。気ぃつけて帰れよー!」

生徒たち「はーい!」

真  尋「……ふう。それにしても今日は妙に暑いな。体がユデダコみてーに火照ってるぜ……」

女の子 「せんせー、真尋せんせー!」

真  尋「あれっ? お前は確か、ウチの旅館の近くに住んでる……」

母  親「はい。来月からこの子も和太鼓教室に入ることになりました。真尋さま、これから宜しくお願いいたします」

真  尋「そっか、そうだったな。こちらこそよろしく!

     それにしてもお前、大きくなったなー! 昔はあんなにチビだったのによー。ほら来いよ、肩車してやる。……そらっ!」

女の子 「きゃー♪」

真  尋「どうだ、高いだろ? 楽しいだろー。んじゃ、ぐるっと回ってみっか!

     ――っととと!?」

母  親「真尋さま? どうしました?」

真  尋「い、いや、ちょっと足元がふらついてよ……」

母  親「大丈夫ですか? 心なしか顔も赤いですし、風邪でも引いたのでは……」

真  尋「かっ、かか、風邪ッ!?」

母  親「ええ。今ちょうど流行ってるみたいですし……」

真  尋「い……いやいやいや! 大丈夫だって!」

母  親「でも……」

真  尋「大丈夫、大丈夫! んじゃ、降ろすぞー。……足着いたか?」

女の子 「着いたー!」

真  尋「よっしゃ! 来月からよろしくな。ビシバシ行くからついてこいよ!」

女の子 「うん! 真尋せんせー、バイバーイ!」

真  尋「バイバーイ!」

 

真  尋「……」

 

□飯坂町内・餃子屋前――。

真  尋「んー……っ。暑くて体がダルいな……。

     ま、こういう時は円盤餃子だ! いっぱい食べてスタミナつけるぜ! おやっさーん!」

 

――ガラッ!

 

店  主「おう! 真尋さま、いらっしゃい! ちょうどいいところに来たな!」

真  尋「……あぁん?」

萌  湖「あー! 真尋ちゃんだー!」

砂  和「真尋ちゃん♪ 元気にしてたかなー?」

真  尋「……萌湖! 砂和!」

 

真  尋「お前ら、なんで二人して飯坂にいるんだ? しかもあたしの行きつけの店に」

萌  湖「だって~。今日は発明のアイデアがな~んも出てこなくってさ~。そしたら砂和ちゃんが来たから、一緒にパルパルしてこよ~って♪」

真  尋「パルパル? なんだそりゃ?」

萌  湖「パルパルはパルパルだよ~! 発明で頭を使ったあとは、のんびりふらっとパルパルするのさ~♪」

真  尋「ぜんっぜんわかんねえ……」

砂  和「ほら、萌湖ちゃんっていつも家に引きこもって発明ばかりしてるでしょ? 私、萌湖ちゃんの体が心配で、健康診断をさせてもらおうと思って浜松に行ったんだけど、そしたら萌湖ちゃんが……」

萌  湖「砂和ちゃん、一緒にパルパルしよーっ!」

砂  和「って言い出して……。

     そ・こ・で! 餃子通の萌湖ちゃんを飯坂温泉に連れてきたのでしたー♪」

真  尋「パルパルの答えになってねえぞ」

萌  湖「え~? パルパルはパルパルだってば~!」

砂  和「あっ、そうだ! せっかくだから真尋ちゃんも健康診断してあげようか?」

真  尋「えっ!? け、健康診断?」

砂  和「うん♪ この時期、暑くなってきたからって冷たい飲み物をがぶ飲みしたり、エアコンかけたままお腹出して寝たりして風邪を引いちゃう人が多いんだ」

真  尋「ぎくっ。あ、あたしはそんなこと……」

砂  和「ホントかなー? 私の目はごまかせないよー!

     ささっ、こっちに来て。まずはお熱はからせて♪」

真  尋「ひぃっ……そ、それより萌湖! 発明って一体どんなもん作ってんだ?」

砂  和「!!」

萌  湖「んーっとねぇ……あれ?」

砂  和「……された……」

萌  湖「さ、砂和ちゃん?」

砂  和「真尋ちゃんに無視された。無視された。無視された……」

萌  湖「ひぃ!?」

真  尋「げげっ!?」

砂  和「そうだよね……。私うっとうしいよね……。湯原に帰って砂遊びするね……」

真  尋「い、いや! あたしはそんなつもりじゃ……!」

萌  湖「そうそう! 湯原に帰る必要なんてないよ!」

真  尋「おっ! 萌湖、フォロー頼む!」

萌  湖「じゃじゃーん! 『夜のプライベートビーチ』~~~~!!」

真  尋「へっ?」

萌  湖「これさえあれば、いつでもどこでも砂遊びができる! しかも三分経ったら自動で元通りにしてくれるからエンドレスで楽しめるよ!」

砂  和「素敵……! ありがとう、萌湖ちゃん!」

真  尋「おいおい! 餃子屋まで来て何やってんだ、お前らはーっ!

     ほら、餃子来るからそれどかせ!」

店  主「できたよ! 円盤餃子おまたせぃ!」

 

――ドンッ!

 

三  人「「「……ごくり……!」」」

砂  和「これが円盤餃子……!」

萌  湖「ひまわりみたいにお皿いっぱいに並んでる……。並べ方は萌湖の好きな浜松餃子と一緒だけど、浜松餃子は真ん中にモヤシがのっているのに対して、この円盤餃子は真ん中までギッシリ餃子が詰め込まれてる!」

真  尋「ふふん。そうだ! 円盤餃子はボリュームいっぱい。油多めに焼いてるから、見た目はまるで揚げ餃子。だけどカリッとした表面に対して、皮はもっちり。一度食べたらやみつきになること間違いなしよ! さあさあさあ、アッツアツを思う存分食べな! 誰が一番多く食べられるか、真剣勝負の始まりだぜ!」

二  人「「いっただっきまーす!」」

 

萌  湖「はふぅ~。もうお腹いっぱいだよ~」

砂  和「美味しかった……」

真  尋「だろ? んじゃ、そろそろ出るとするか! せっかく飯坂に来たんだ。円盤餃子だけじゃ物足りねえ。ぜーんぶこのあたしが案内してやるぜ!」

萌  湖「わぁー! やったやったー!」

砂  和「嬉しい! ありがとうー♪」

真  尋「へへっ。いいってことよ。遠くからはるばる来てくれた礼だ、ここはあたしがおごってやる! ちょっと待ってろよ、いま会計すましてくるから……っと。あ、あれ……?」

萌  湖「真尋ちゃん?」

砂  和「どうしたの? なんだか足元がふらついてるよ?」

真  尋「あーいや、実は今日、朝から体がダルくてよー。のども変だし……」

砂  和「!?!? 足元のふらつき、倦怠感、のどの違和感……!?」

真  尋「あっ!」

砂  和「真尋ちゃん。それって風邪じゃない……?」(じーっ)

真  尋「どきっ! ……え、えぇー? まさかあ、ちがうだろー。あたしは風邪なんかじゃ……。ふぇっくしょん!」

二  人「「…………」」(じーっ)

真  尋「……風邪なんかじゃ、ない。……たぶん」

砂  和「こらー! そんなわけないでしょー!」

真  尋「ひっ!」

砂  和「意地張っちゃいけません! どれも立派な風邪の初期症状です!」

真  尋「う……! うう……っ! そうかも……そうかもしれないんだが……!」

砂  和「……真尋ちゃん?」

真  尋「ぐあああぁぁぁ……!!」(へなへなへな)

砂  和「ええっ!?」

萌  湖「ま、真尋ちゃんが急にへにょへにょになっちゃった……!」

真  尋「もうダメだ……。自覚したとたん力が……。あたしはこのまま死ぬんだ……」

砂  和「し、死んだりはしないから大丈夫よ! ほら、私につかまって立って。今日はゆっくり休もう?」

萌  湖「萌湖が作った『夜の女医さん』も貸してあげるね! すぐ治るって!」

真  尋「や、やめろ……。あたしに近づいたらお前たちまで死んじまう……。

     あと萌湖、そのいかがわしい名前のロボはしまってくれ……。

     って、ああーーーーっ!?!?」

萌  湖「わあっ!?」

真  尋「和太鼓教室の子どもたち……!」

二  人「「?」」

真  尋「あたし、ここに来る前に和太鼓教室で子どもたちと会っちまったんだ……!

     絶対みんなにうつしちまった……っ! うわあああぁぁぁーーー……っ!! パンデミックだぁ……っ!! 飯坂が滅んじまう……!」

砂  和「え、ええっ……。そんな大げさな……」

真  尋「砂和、萌湖、頼む……! あたしのことはいいから、先に子どもたちを……子どもたちを助けてやってくれ!」

砂  和「わ、わかったわ!(多分大丈夫だと思うけど……)」

萌  湖「よーし! 『夜の女医さん』、子どもたちのところへ出勤~~!!」

真  尋「砂和……。子どもたちのことは任せたぜ……。

     あと萌湖、そのいかがわしい名前のロボはやめ……ろ……」(バタッ)

(おわり)

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