温泉むすめショートストーリー 第17話【復刻】
□温泉むすめ師範学校・廊下――。
亜矢海「美月さん! 今日こそお話しましょ~!」
美 月「ヒィィィ~! だ、だから何なんですかあなた!」
亜矢海「中等部二年の鳥羽亜矢海ですよ~!」
美 月「そ、そういう意味の質問じゃなくて……日焼けコワイ! 陽キャコワイ~!」
――ズダダダダダダダダッッ!!!
亜矢海「あー、もう見えなくなっちゃった……。逃げ足速いなー!」
まゆの「あははっ! 逃げられてやんの」
亜矢海「あっ、まゆちゃーん! おつー!」
まゆの「おつあり~っす♪
それにしてもミツキング、スゲー勢いで逃げてったなあ」
亜矢海「ね! 美月さんがあんなに足が速いって知らなかったよ~!」
まゆの「確かに。自分、ミツキングと同じクラスなのに全然知らなかったわー。逃げ足だけ速い系なのかな?」
亜矢海「すごいよね!」
まゆの「すごいか? ま、そうやって何でも褒めるのは亜矢海らしいけどさ」
亜矢海「ふぅむ……あの脚力があれば、美月さんと"アレ"できるかも……」(ブツブツ
まゆの「つーか、こないだから『ミツキングと仲良くなりたい』って言ってたのマジだったんだね。亜矢海とミツキングってキャラ全然違うし、結構意外かも」
亜矢海「ん? ああ、マジだよ! 美月さんが楽しそうにおしゃべりしてるところを見てると、わたしまでハッピーになってくるんだよー!」
まゆの「楽しそうに? ってことは、オタトークしてるときかな?」
亜矢海「だから、わたしも美月さんとおしゃべりしてみたいんだけど……」
まゆの「逃げられちゃうと。まあ、亜矢海はオタ趣味ないもんな」
亜矢海「そうなの。どうすればいいかな?」
まゆの「なんか適当なアニメ観るとか?」
亜矢海「美月さんと一緒にダイビングするしかないかな!? 一緒に海に潜ったらみんな友達だし!」
まゆの「おい。こっちの話聞いてる?」
亜矢海「よーし、決まり! 今から美月さんを誘いに行ってくる!」
まゆの「待て待て! それなら自分が行くから!」
亜矢海「え、まゆちゃんが?」
まゆの「『一緒にダイビングしましょー』なんて誘い方でオタのミツキングがついてくるわけないじゃん。とりま海まで連れてきてやるから、ここは自分に任せといて」
亜矢海「いいの!? ありがとー、まゆちゃん!」
□三重県鳥羽市・とある海岸。
まゆの「つーわけでミツキング、ようこそっす~!!」
美 月「……」
まゆの「ここは自分と亜矢海の秘密の海岸なんすよ~。自分たち幼馴染ってヤツで」亜矢海「あれ? まゆちゃん、喋り方いつもと違うね」
まゆの「タメ以上の相手には基本こうだよ」
亜矢海「へー」
まゆの「しかも、今回のお相手は天下の下呂温泉の温泉むすめだし! よろしくっす~♪」
亜矢海「よろしくです、美月さん!!」(パチパチパチ
美 月「…………」
まゆの「どーしたんすかミツキング。さっきから固まっちゃって」
美 月「……あ、あのー、まゆのさん。これは一体どういうこと、ですかね」
まゆの「というと?」
美 月(ぐ……! 謀りましたねまゆの氏~~!!
今話題の競泳+酒造部アニメ『オール☆フリー』の聖地巡礼ツアーって聞いたから来たのに、ここは何!? 酒蔵どころかプールですらない! ただのビーチ! こうなったらガツンと言ってやるでござる!!)
美 月「まゆの氏!!」
まゆの「ん?」
美 月「…………。えーっと、その、『オール☆フリー』の件は……ふへっ」
美 月(無理でしたーっ!)
まゆの「あ、もちろん『オール☆フリー』の聖地には案内するっすよ! こっちのイベントが済んだらっすけど」
美 月「イ、イベント……?」
亜矢海「――は~い! わたしが主催のイベントです!」
美 月「ひっ!」
美 月(日焼けの……底抜けの陽キャ……!! わたしが一番苦手な人種~~! なんで最近やたらと絡んでくるの!? わたし何かした!?)
美 月「……」(プルプル
亜矢海「美月さん?」
まゆの「大丈夫っすか、ミツキング。なんか震えてるっすけど」
美 月(こ、怖い……! だが、耐えるんだ美月! これも今期最推しのアニメ、『オール☆フリー』のため! 今、わたしの作品愛が試されているッ!)
美 月「そ、それで、イベントというのは?」
亜矢海「はい! わたし、美月さんと一緒に『伊勢湾遠泳大渡り』をしたいんです!」
美 月「……は?」
亜矢海「簡単に説明するとですねー、ここ三重県鳥羽市から伊勢湾を横断して、対岸の愛知県南知多町へ泳ぐんです! まゆちゃんのとこですよ!」
美 月「無☆理!!!」(ダッ
まゆの「あっ、逃げた!」
亜矢海「なんで~!? その脚力なら泳ぎ切れますよ~っ!!」
♨ ♨ ♨
美 月「はぁ、はぁ……! 誰か~~! 助けて~~!」
亜矢海「待ってくださ~い! イルカたちも一緒に泳いでくれて楽しいですよ!」
美 月「ヒィ……ヒィ……。――うぶっ!」(ドテーン!!
まゆの「うわ~、顔面から思いっきり砂浜に突っ込んだ……」
亜矢海「美月さん、大丈夫ですか!?」
美 月「……うぅ」
亜矢海「あの、美月さん……?」
美 月「うおぉーっ! いっそ殺してくれ! わたしに何の恨みがあるんだーっ!?」
亜矢海「えっ? えぇっ!? 恨みって何ですか!?」
美 月「まばゆい陽の気は陰者の拙者には厳しすぎるでござるぅぅぅ~~!!」
亜矢海「陽の気? 陰者?」
美 月「伊勢湾を泳いで渡る!? 拷問のつもりでござるか!?」
亜矢海「え、えーっと……」
まゆの「ハイハイハーイ! そこまで!」
亜矢海「? まゆちゃん?」
まゆの「『伊勢湾遠泳大渡り』は終了っす! ミツキング、おつでしたー」
美 月「……へ?」
亜矢海「え? まだ泳いでないよ?」
まゆの「これ以上粘ってもこじれるだけっしょ。ミツキング、ビビらせて悪かったっす。
こいつ、ちょーっと押しつけがましいところがあって」
美 月「あ……いえ……」
まゆの「で、亜矢海。イベントのメインは『大渡り』じゃないっしょ?
『渡す』もの、あるよね?」
亜矢海「あ、うん……」
美 月「……?」
亜矢海「えっと……美月さん。これ、受け取ってください!」
美 月「………へ? イルカのぬいぐるみ?」
亜矢海「えへへ。ほんとは一緒に泳ぎ切ってから渡したかったんですけど」
まゆの「ほら、これっすよ。自分がいつも腰につけてるやつ。こいつもちっちゃいころに亜矢海からもらったんす」
美 月「な、なるほど……」
亜矢海「……仲良くしてくれますか?」
美 月「あ、はい。仲良くですね、仲良く……って、いやいやいや! いきなりそんなこと言われましても」
亜矢海「だめ、ですか?」
美 月「だめというか、その、うーん……」
亜矢海「一緒にお話ししてくれるだけでいいんです! 好きなことを話してるときの美月さん、すっごくハッピーそうで!」
美 月「……」
亜矢海「今日は勝手に突っ走っちゃってごめんなさい。でも、美月さんのことが気になるのは本当なんです! 美月さんのことすっごく知りたいんです!!」
美 月「………う、うぅん」
亜矢海「あ、あれ? 美月さん、また固まっちゃった」
まゆの「あはは。急にこんな熱烈なラブコールされたら誰だって頭パンクするっしょ」
亜矢海「またわたしのせい!? ごめんなさい美月さん!
うぅ、こうなったら反省ダイブしてきますーーー!!!」
美 月「あっ、ちょっ! 待った待った!」
亜矢海「?」
美 月「その……こんなかんじでどうですか」
亜矢海「あ……」
まゆの「おー。イルカのぬいぐるみ、スマホにつけてくれたじゃん」
美 月「普段はカバンに眠ってるサブのスマホですけどね」
まゆの「ひねくれてるっすね……」
美 月「こ、これが今の精いっぱいなんです!」
亜矢海「…………わぁ! やったーー!」
美 月「か、勘違いしないでくださいよ! いきなり仲良くというのは、やっぱり難しくてですね――」
――ガバッ!!
亜矢海「美月さ~ん! わたし嬉しいです!! 明日から何して遊びますか!?」
美 月「んぎゃー! 距離感! 距離感がおかしい! 早い! 詰めるのが早い!」
亜矢海「えへへ! わたしたち三人で愛三岐トリオの結成ですね!」
美 月「なんですかその謎組織! なんで陽キャってすぐ徒党を組みたがるんです!?」
まゆの「よかったね亜矢海。ミツキング仲良くしてくれるって!」
亜矢海「うん! まゆちゃんもありがと!」
美 月「そこまでは言ってないですって! もうやだ! 帰りたい~!!」
まゆの「ほう……帰ると」
美 月「……」(ビクッ
まゆの「ミツキング~、ほんとーに帰っちゃっていいんすか?」
美 月「か、帰りますよ! 帰って推しに慰めてもらうんだ……」
まゆの「へー、帰っちゃうんすねー。ふーん」
美 月「な、なんでござるか、さっきから思わせぶりに……」
まゆの「あーあ。まだ『メインイベント』が終わってないんだけどなー」
美 月「『メインイベント』?
――はっ!?」
亜矢海「なんだっけ?」
まゆの「亜矢海、ミツキングが幸せそうにしてるのが見たいんだよね?」
亜矢海「うん!」
まゆの「ミツキングがつい早口になっちゃう『メインイベント』といえば?」
亜矢海「――あ!」
まゆの「オッケー! ふたりとも気づいたっすね。そう、あれっすよ!」
亜矢海「あれだね!」
美 月「そうだ、行かねば!! 『オール☆フリー』の――」
三 人「「「聖地☆巡礼!!!」」」
Fin.
written by Ryo Yamazaki