story おはなし

温泉むすめショートストーリー 第18話【復刻】

□宮城県・仙台市。那菜子の家――。

彩 耶「よいしょ、よいしょ……。このトレーを玄関に運んで、っと……」

那菜子「あっ、彩耶ちゃん。それ、ここに置いといてくれるべか?」

彩 耶「わかった。……ほいっと。(ドサッ)

――よし」

那菜子「ありがとう。助かったべさ~!」

彩 耶「どういたしまして。運ぶものはこれで最後かな?」

那菜子「うん! ここに置いとけば、あとはおとうさんが車でお店に運んでくれるべさ~」

彩 耶「そっか」

那菜子「今日は遊びに来てくれたのに、手伝ってくれてありがとだべさ」

彩 耶「いいって、いいって。

それにしても、これ全部おはぎなんでしょ? 午後になってこんなに納品するなんてすごく売れてるんだね、那菜子んちのスーパーのおはぎ」

那菜子「おはぎはうちの人気商品だべ。なるべくたくさんのお客さんに喜んでもらえるように、みんな暗いうちから厨房に集まって一生懸命つくってるべさ!」

彩 耶「ふむふむ。美味しさの秘密はそこにあるのかもね!

那菜子んちのおはぎはどれも美味しいから、この前なんかあれもこれもって結衣奈が欲張って、危うくノドにつまらせそうに……って、あれ? 結衣奈は?」

那菜子「そう言えば、さっきから見かけないっちゃね」

彩 耶「一緒に手伝ってたはずなんだけどな。どこにいるんだろ?」

 

結衣奈「おーい! 彩耶ちゃーん! 那菜ちゃーん!」

 

彩 耶「ん? あの声は……」

那菜子「結衣奈ちゃんだべさ!」

 

結衣奈「二人とも外に出てきてーっ! 早く早くーっ!」

 

那菜子「外?」

彩 耶「まったくもう――結衣奈!」

 

――ガラガラッ!

 

彩 耶「……あれ?」

那菜子「見当たらないっちゃね……」

 

結衣奈「もーっ! こっちこっち! ここだよーっ!」

 

彩 耶「えっ? どこどこ?」

那菜子「あっ! 彩耶ちゃん、あそこ! 蔵の窓から手を振ってるべさ!」

彩 耶「? ……あーっ! あんなところに!」

 

結衣奈「おーい! 二人とも、面白いもの見つけたよーっ!」

 

□蔵の中――。

彩 耶「まったくもう。ここで何してたの?」

結衣奈「いやー、やることなくなってウロウロしてたら、ちょうど蔵の扉が開いててね。

なにげなく入ってみたら、すごいものを見つけたんだ!」

那菜子「すごいもの?」

結衣奈「これだよ! じゃーん!!」

那菜子「ああっ! そ、それは……!」

彩 耶「アルバム!?」

結衣奈「そうなの! なつかしくない!?」

二 人「「なつかしーーー!!」」

結衣奈「でしょでしょ! みんなで見ようよ!」

彩 耶「うん、見よう見よう!」

那菜子「いつのかな?」

結衣奈「えーっとねえ……」(ペラッ)

那菜子「あっ、入学式! 初等部一年生になったばかりのわたしだべさ!」

結衣奈「那菜ちゃん、おかあさんの後ろに隠れてこっち見てる! かわいーっ!」

那菜子「あう……。な、なんか恥ずかしいべさ……」

彩 耶「那菜子、この時から今と同じヘアゴムしてるんだね」

那菜子「これはおかあさんが緊張しないようにって作ってくれて……。

そ、それ以上見ちゃダメだべさ~!」(ガバッ)

結衣奈「あ、隠した! もっと見せてよーっ!」

彩 耶「あはは。結衣奈が師範学校に来たのは今年からだし、初等部にいる那菜子の写真を見たい気持ちは分かるかも」

那菜子「べ、別に珍しいものじゃないべさ。確かに小学校は違ったけど、この頃から結衣奈ちゃんとは仲良かったし……。次のページ行きまーす」(ペラッ)

結衣奈「むぅ……。えっと、これは?」

彩 耶「みんなで箱根に行った時の写真だね。私覚えてる。一緒に山を登ったの!」

結衣奈「んー? そんなことあったっけ?」

那菜子「あれ。結衣奈ちゃん、なんで鼻の頭に絆創膏してるべか?」

結衣奈「えっ? ホントだ。なんでだろ?」

彩 耶「無理して私についてきて、木の根っこで滑って転んだんだよ。鼻水たらしながらギャンギャン泣いてた」

結衣奈「うえぇっ!? 鼻水っ!?」

那菜子「あははっ。結衣奈ちゃん、勝負になると熱くなるところ、この時から変わってないっちゃね!」

彩 耶「ほんとほんと」

結衣奈「うぅ……。は、鼻水なんかたらしてないよぅ……たぶん……。

あーもう! 次いこ、次っ!」(ペラッ)

二 人「「えーっ!」」

結衣奈「えっと、これは……。あれ? この場所って……」

那菜子「うちだべさ。三人で浴衣着て花火してるねえ」

彩 耶「思い出した! 夏休みにみんなでお祭りに行った年だよ。那菜子のおかあさんが浴衣着せてくれてさ!」

結衣奈「あー! あった、あった!!」

那菜子「秋保温泉夏まつりだべさ!」

彩 耶「遅くなったからって、那菜子のおとうさんがうちと結衣奈んちに連絡入れてくれて、一晩泊めてもらうことになって……」

結衣奈「次の日かくれんぼしたよね! でも那菜ちゃんが最後まで見つからなくてさー」

那菜子「わたしの家だもん。この家のことは知り尽くしてるし、簡単には見つからないに決まってるべ」

彩 耶「他にもいろいろ遊んだよね。鬼ごっこしたり、おままごとしたり、この蔵で探検ごっこしたり――……あれ?」

結衣奈「? どうしたの?」

彩 耶「この柱、たくさんキズがついてる」

結衣奈「ホントだ」

那菜子「彫刻刀で彫ってあるみたいっちゃね。横にわたしたちの名前が書いてあるところもあるべさ」

彩 耶「他にも柱はあるのに、なんでこれだけこんなにキズがついてるんだろ?」

結衣奈「うーん……。

……あっ! わかった! 背比べだよ!!」

那菜子「背比べ?」

彩 耶「そっか。これ私たちの身長なんだ!」

那菜子「そう言えばそんなことしてたっちゃね。なつかしいべさ~」

結衣奈「わあー……。わたしたちってこんなに小さかったんだね……」

彩 耶「うん。大きくなった実感なんてないけど……」

那菜子「成長してるっちゃね……」

 

三 人「「「………………」」」(しみじみ)

 

結衣奈「……ねえ、久しぶりに背比べしようよ!」

彩 耶「いいね! やろうやろう!」

那菜子「わたしも測ってほしいべさ!」

結衣奈「ふっふーん。誰が一番大きいか勝負だよ!」

那菜子「わたし、今すぐ彫刻刀と油性ペン取ってくるべさ~!」

 

♨          ♨           ♨

 

   -さや

 

 

   -ななこ

   -ゆいな

 

結衣奈「……そんな……」

那菜子「結衣奈ちゃん……」

彩 耶「結衣奈……」

結衣奈「そんなああ! 彩耶ちゃんに負けるのは仕方ないとしても、わたしより那菜ちゃんのほうが大きいなんてウソだああーーーっ!!」

彩 耶「うそじゃないから! もう十回は測り直したでしょ!?」

結衣奈「わたし、もしかしたら測る時にちょっとだけヒザ曲げちゃったかも……。

彩耶ちゃん、もっかい測って!」

彩 耶「いや、だからさっきもそう言ってたよね!?」

那菜子「…………」

彩 耶「那菜子もなんとか言ってよ。このままじゃ終わらないよ」

那菜子「ふふ、ふふふふっ……!」

彩 耶「え? な、那菜子?」

那菜子「彩耶ちゃん。こうなった結衣奈ちゃんは収まらないべ……。気が済むまでとことん付き合ってあげるべさ」

 

結衣奈「もー! 絶対絶対、那菜ちゃんよりわたしのほうが大きいんだからー!」

 

二 人「「………ん?」」

彩 耶「なんか……このやりとり、既視感があるような」

那菜子「わたしも。そう言えば、昔もこうやって結衣奈ちゃんが駄々をこねて……」

彩 耶「何回も測り直した! 思い出した!」

那菜子「……ふふっ。だからこの柱にたくさんキズがあったっちゃね」

彩 耶「あの頃からずいぶん大きくなったなって思ってたけど、やっぱり私たち……」

那菜子「全然変わってないべさ……」

 

結衣奈「ちょっとー! 二人ともさっきからなに話してるのー!? こっちは準備万端だから、早くもっかい測ってよーっ!」

著:黒須美由記

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