story おはなし

温泉むすめショートストーリー 第20話【復刻】

□埼玉県・秩父市。公民館――。

 

――ドドンドドン、カッ、ドンッ!

 

美祭・真尋「「ヤァーッ!!」」

 

  ――ドドンッ!

 

美 祭「……ふう。決まったね、真尋ちゃん!」

真 尋「ああ! やっぱこうしてダチと一緒に太鼓叩くのはサイコーだぜ!

誘ってくれてありがとな、美祭!」

美 祭「こちらこそ秩父まで来てくれてありがとうだよー!

あたしってばもう秩父夜祭は終わったっていうのに、いつまで経ってもあの時の熱が冷めやらなくてさぁ~」

真 尋「ははっ。分かるぜその気持ち。あたしも飯坂けんか祭りが終わったあとはいつもそんな感じだしな!」

美 祭「あははっ。あたしたち気が合うね!

それじゃ練習も終わったことだし、豚みそ丼でも食べに行きますかぁ~!」

真 尋「おう!」

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???「じぃーーっ……」

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□秩父市内。本屋の前――。

美 祭「でね、秩父夜祭は最後の花火がまたきれいで――……ん?」

真 尋「どうした? 急に立ち止まって」

美 祭「こ、このポスターはっ……!

今話題の小説、苺坂ゆめ先生の『どきどき♡トライアングル』!!」

真 尋「小説?」

美 祭「そう! 恋愛小説なの! しかも三角関係の!!

これ、この前友達に薦められて読んだんだけど、ホントありえなくて!!」

真 尋「お、おう……」

美 祭「主人公のマリカは真面目なキリトくんに片思いしてるんだけど、キリトくんには熱血スポーツ少年のヒロくんっていう友達がいて、ある日マリカはヒロくんに、キリトくん宛のラブレターを奪われて、キリトくんやみんなの前で読まれちゃうの!」

真 尋「へー」

美 祭「で、恥ずかしくてその場から走り去って校舎裏で泣いてたら、ヒロくんが来て『キリトのためになんか泣くなよ』って抱きしめられて……。なんとそこを大好きなキリトくんに見られちゃうの!!」

真 尋「ほー」

美 祭「キリトくんは『ごめん』って言っていなくなっちゃうし、ヒロくんには告白されちゃうし、そんな二人は友達だし、タイプのちがう男の子に挟まれてどうしたらいいか分からないマリカ……!

あーもう!! 三角関係ってどうしてこんなに胸が締め付けられるの~!?」

真 尋「ふーん……」

美 祭「……あ」

 

美 祭(しまった、つい熱が入ってしゃべりすぎちゃった!

真尋ちゃん全然話に食いついてないじゃん!)

 

美 祭「こ、こほん。

……って感じで、三角関係の話って読んでるとモヤモヤしちゃうんだよね~。

真尋ちゃんは小説読んだりしないの?」

真 尋「あんまり読まないなー。外で体動かすほうが好きだし」

美 祭「そっかぁ……」

 

美 祭(真尋ちゃんって運動神経抜群だよね~。好きなものがハッキリしてて、まるで『どきどき♡トライアングル』に出てくるヒロくんみたい……なんて、あたしってば小説の読み過ぎ?)

 

美 祭「ふふ……」

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???「じぃーーっ……」

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真 尋「……なあ、なんかさっきから視線を感じないか?」

美 祭「へ? 視線?」

真 尋「誰かがあたしたちをつけてきてるような……ちょっと移動してみるか」

美 祭「うん……」

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???「……動いた! 尾行再開でござる!」(ササッ

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真 尋「やっぱり! こっちが動いたら向こうも追いかけてきたぞ!」

美 祭「ええっ!? どうしよう、真尋ちゃん!」

真 尋「シッ! このまま気付かないフリして歩いてその角曲がろう。そこで待ち伏せして捕まえる。大丈夫だ、あたしに任せろ」

美 祭「う、うん……!」

 

――スタスタスタ……

 

真 尋「よし。ここで待つぞ……。

……来た!」

 

――ひたひたひた……

 

真 尋「うぉりゃーーーっ!!」(バッ)

???「わぁっ!?」

真 尋「この野郎! あとをつけるなんていい度胸だ!」(ドカッ)

???「ぐふっ!」

美 祭「あっという間に抑えこんだ! さすが真尋ちゃん!」

???「ひえぇ……! ごめんなさい、ごめんなさい! 水ようかんあげるから許してくださいぃ~!!」

美 祭「水ようかん?」

真 尋「って、その声は……」

季利花「ぐすっ、ぐすっ……。真尋先生、ごめんなさい~……」

真 尋「――なんだ。季利花じゃねーか」

 

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真 尋「ったく、東山温泉の温泉むすめがなんで秩父にいるんだよ」

季利花「面目ない。今朝がた見回りをしていたところ真尋先生を見つけて、ついあとをつけてきてしまったでござる……」

美 祭「先生?」

季利花「はい! あたし、真尋先生は立派な武士になる素質があると思っておりまして、こう呼ばせていただいている次第!」

美 祭「ぶ、武士……」

真 尋「いや、あたしは認めてないぞ!」

季利花「いいや、先生は先生でござる! 今日だって大荷物を抱えて秩父まで来て、秘密の特訓をされていたのでござろう!」

真 尋「太鼓の道具だよ!」

季利花「そもそもの発端は幕末の恩義、飯坂温泉のある棚倉藩は我が会津藩に助力すべく奥羽列藩同盟に参加し……」

真 尋「知るかーっ! いや知ってるけど! いちいち古いんだよ!」

美 祭「あはは! 二人とも仲良しだねぇ~!

あ、これから豚みそ丼食べに行くんだけど、季利花ちゃんも来る?」

季利花「えっ? しかし、あたしは通りすがりの乱入者で……」

真 尋「今さら何遠慮してんだ。この際、お前の思い込みを徹底的に叩き直した方がいい気がしてきたからな。来いよ」

美 祭「ご飯はみんなでワイワイ食べたほうが美味しいよー!」

季利花「真尋先生……。美祭殿……。ほ、本当にいいのでござるか?」

真 尋「ああ」

美 祭「もちろん!」

季利花「わぁー! 嬉しい、ありがとう!! ……でござる」

真 尋「そこ、わざわざ言い直すか?」

季利花「えへへ……。思わぬお誘い、恩に着るでござるよ!」

美 祭「あはっ。もう、そんなにかしこまらなくていいってばー!」

 

美 祭(季利花ちゃんって真面目だなぁ~。ちょっと不器用なところも、『どきどき♡トライアングル』に出てくるキリトくんみたい……。

って、あたしってばまた小説のこと考えてる?)

 

美 祭「うふふ……」

真 尋「うっし! そうと決まったら行くか!」

季利花「お二人と食べる豚みそ丼、楽しみでござる!」

美 祭「うんっ! なんかテンション上がってきたー!

……はぁ~、祭り終われど毎日踊るぅ~♪ アイドル街道、駆け抜っけてぇ~♪ あ、ソレ!」

季利花「!?」

真 尋「あちゃー。また始まったか」

季利花「ま、美祭殿、急に踊り出してどうしたでござるか!?

美祭殿がっ……美祭殿がご乱心じゃー!!」

真 尋「ちがうちがう。美祭はこういうヤツなんだよ。いつでもどこでも踊り出しちゃうくらい祭りが好きなんだ」

季利花「ほう……」

美 祭「その通りっ! だから秩父夜祭が終わって、もぉ~悲しくて悲しくて。

でも~狭いニッポン、俯いてるよりパっと盛り上げ踊らにゃソンソンソン~♪」

季利花「なるほど……! では、あたしも!

……エイヤ~会津磐梯山はぁ~宝の山よ~♪」

美 祭「おぉっ! そのステップは!?」

季利花「『会津磐梯山』! あたしの住む東山でも、毎年八月に東山温泉盆踊りを開催してるのでござる!」

美 祭「盆踊り? ということは、もしかして季利花ちゃんも……!」

季利花「祭り好きでござる!」

美 祭「おぉ~っ! 同志だ~!」

季利花「同志よ!!」

真 尋「待て待て、二人とも!

祭りと言ったら飯坂を忘れちゃ困るぜ。毎年十月は飯坂名物けんか祭りだ!」

季利花「真尋先生……!」

美 祭「あはは! そうだった、そうだったぁ!

いやーあたしたちってお祭りむすめ同士、気が合うねー!

あたしたちぃ~、ニッポン最強お祭りむすめ♪ あ、ソレソレ♪

――っとぉ!?」(フラッ)

二 人「「危ない!」」(ガシッ)

美 祭「!!」(ドキッ)

真 尋「おいおい、大丈夫かー?」

美 祭「う、うん……」

 

美 祭(なんだろう……。さっき真尋ちゃんをヒロくん、季利花ちゃんをキリトくんみたいって思ったせいかな? 二人同時に両手をつかまれて一瞬ドキッとしちゃった……)

 

美 祭「も、もぉ~二人がいてくれなかったら転んでケガするとこだったよー!」

季利花「美祭殿、疲れているのでは……」

真 尋「確かに午前中ずっと太鼓叩きっぱなしだったからなー。

そうだ! 昼飯食ったらみんなで温泉に行こうぜ!」

季利花「おぉ! 温泉でござるか!」

美 祭「温泉かぁ……。みんなで温泉入るなんてちょっと恥ずかしいけど、着替えは別々にすればいいし……うん。

いいねいいねー! それならあとで秩父温泉に――」

真 尋「やっぱ疲れを取るなら飯坂温泉だよな!」

美 祭「……ん?」

季利花「いいや、そこは東山温泉でござろう」

美 祭「……んん!?」

真 尋「おいおい、何言ってんだ。汗をかいたあとはアツい飯坂温泉に決まりだろ?」

季利花「疲労回復なら、かの土方歳三も傷を癒した東山温泉に浸かるのが一番でござる」

美 祭「ちょっ……二人とも??」

真 尋「本気で言ってんのか? 温泉のことなら譲らねーぞ!」

季利花「それはこっちのセリフでござる! お昼ごはんにお誘いいただいたお礼に、お二人を東山温泉で誠心誠意もてなす所存です!」

真 尋「あぁ!? ここは飯坂だろ!」

季利花「いいや、東山でござる!」

美 祭「……あのー……」

真 尋「……」(バチバチ)

季利花「……」(バチバチ)

美 祭「……」

 

美 祭(あわわ。た、大変な事になっちゃったよ~! なんとかこの場を収めなきゃ!)

 

美 祭「も、もぉ~。二人とも落ち着い……」

真 尋「美祭はどう思ってんだ?」

美 祭「へっ?」

真 尋「やっぱ飯坂温泉だろ!?」

季利花「東山温泉でござるよね!?」

美 祭「……えぇーーっ!?」

 

美 祭(ど、どうしよう!? ヒロくんみたいな真尋ちゃんと、キリトくんみたいな季利花ちゃんに挟まれて……。

ん? ということは、主人公のマリカがあたし!?)

 

美 祭「えっと……その……!」

真 尋「美祭、答えてくれ! あたしを取るか」

季利花「あたしを取るか」

二 人「「さあ、どっち!?」」

美 祭「……こっ、これが……」

二 人「「??」」

美 祭「リアル三角関係ーーーっ!?」

おわり

著:黒須美由記

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