story おはなし

温泉むすめショートストーリー 「起こせ佐間さま! 彗としじみのご当地談義」

○玉造温泉・旅館
しじみ「う~……! さむさむ……!」
しじみ「彗さん、片付け終わったよ!」
彗「ご苦労さま。こっちは準備できてるわ」
しじみ「わあ! すごいお料理……! おいしそう!」
彗「貴方が作ってくれたしじみ汁も温めておいたわ。ささやかなお疲れさま会だけど、玉造温泉での夜、楽しんでいきなさい」
しじみ「はい! でも、その前に……」
彗「? どうしたの? 正座して」
しじみ「彗さん! この度は、一ヶ月にわたるご指導ご鞭撻、本当にありがとうございました!」
彗「は?」
しじみ「高等部に進学して初めての神在月。私、ホストのお務めをしっかり果たせるか不安だったんだけど、彗さんのおかげで乗り切れたよ!」
彗「ああ……そういうこと? 礼はいらないわ。同じ島根の温泉(むすめ)」
しじみ「『同じ島根の温泉むすめとして当然のことよ』って? いやいや、そんなことないよ!」
彗「……そう。まあ、世間では10月を『神さまのいない神無月』と呼ぶけれど、ここ出雲では逆に……」
しじみ「『逆に、神さまが集まるから「神在月」! もちろん温泉むすめも例外ではないわ』、だよね!」
彗「……ええ。そして」
しじみ「『そして、全国の温泉むすめが出雲で過ごす神在月の合宿を、ホストとして迎えるのが私たちの責務っ! 島根県の温泉むすめだからこそのお務め、誇りをもってやり遂げてみせましょう!』っていつも彗さんが……」 
彗「しじみ、しじみ」
しじみ「はい?」
彗「私の言葉をとらないで」
しじみ「あ! ごめん! これはその、言葉を覚えちゃうくらいお世話になったということで……」
彗「はあ」
しじみ「今日の打ち上げ、ほんっとーに楽しみにしてたの! 彗さんと佐間さまとゆっくりお話できるなーって……あれっ?」
彗「どうしたの?」
しじみ「そういえば佐間さまは? まだ来てないの?」
彗「あら、気付いてなかった? そこよ」
しじみ「そこ?」
彗「机の下。座椅子を引き出してみなさい」
しじみ「座椅子……これ? よっ、と……おわあっ?!?!」
しじみ「さ、佐間さま……!寝てる……?!」
彗「お務めが終わってスイッチ切れたのよ。体力のない人だから」
しじみ「おばあちゃんだもんねー……。いくつだっけ? 200……300歳?」
彗「400歳くらいじゃない?」
しじみ「そうそう!佐間さまー。起きてーっ。打ち上げ始めるよーっ」
彗「無駄よ。こうなったらまず起きないから放っておきなさい」
しじみ「ええー! 佐間さま、佐間さま!」
しじみ「むう……全然起きない」
彗「……毎年、神在月のお務めのあとはこうなのよ。長い時は丸一日寝こけてたんだから」
しじみ「彗さん、付き合い長いもんね。私もたくさんお世話になってるけど」
彗「江戸時代からずっと温泉津にいる生き字引だもの。色んなことを教えてくれたし、育ての親みたいなものよ」
しじみ「……。やっぱ起こす」
彗「え?」
しじみ「玉造温泉の彗さん! 温泉津温泉の佐間さま! お世話になった二人と一緒に打ち上げしたいの! ねえ、佐間さま~! 起きて~!」 
彗「はあ……」
しじみ「佐間さま~? ほら、今夜のために私が腕によりをかけたしじみ汁だよ~」
彗「動いた?」
しじみ「……佐間さま! しじみ汁です! 宍道湖のしじみを使ったしじみのしじみ汁がしみじみ待ってるよ~!」
しじみ「ほら、彗さんも何か言って!」
彗「え、私? 何を?」
しじみ「佐間さまがつられそうなネタだよ! 玉造の名物とか!」
彗「ええ……? そうね……玉造といえばやっぱり……」
しじみ「うんうん!」
彗「温泉、ね」
しじみ「逆効果ーーーーっ!」
彗「どうしてよ?!」
しじみ「ぽかぽかさせたら寝るに決まってるじゃん! 彗さんのバカ! ヤマタノオロチ! スサノオに成敗されちゃえー!」
彗「罵倒まで出雲風にしなくても……」
しじみ「はあ、はあ……。そして、こんなに騒いでも全然起きそうにない……! こうなったら、やるしかないね……!」
彗「嫌な予感がするけど……何を?」
しじみ「ずばり! 『佐間さま目覚まし作戦』っ!」
彗「はあ……。作戦、ね。諦める気はないの?」
しじみ「ありません! あのね、さっきので起こし方は分かったの。佐間さまが思わず飛び起きちゃうような話をすればいいんだよ。おいしいものとか、地元の名物とかね!」
彗「……」
しじみ「ふふ、どう? 名案でしょ?」
彗「具体的には?」
しじみ「え?」
彗「私を巻き込むからには、中途半端な作戦は許さないわ。もっと具体的な案を出しなさい」
しじみ「け、彗さん? なんか怖(い)」
彗「具体案っ!」
しじみ「は、はいっ! 松江城がいいと思います!」
彗「理由は?!」
しじみ「えと、ま、松江城は全国に12箇所しかない現存天守だからです! 現存天守っていうのは、江戸時代かそれ以前に作られた天守閣が当時のまま残っているお城ののことです!」
彗「……よくできました」
しじみ「彗さぁ~ん……」
彗「でも、佐間さまには効かないわね」
しじみ「えっ!?」
しじみ「ほんとだ! ぴくりともしてない! なんで?! 松江市のシンボルなのに!」
彗「言ったでしょ。佐間さまは江戸時代から生きてるのよ?」
しじみ「え、どういうこと?」
彗「自分で考えなさい」
しじみ「えーっ……? 江戸時代、江戸時代……ああ! まさか佐間さま、現役の頃から松江城知ってるの!?」
彗「ご明察」
しじみ「そりゃ現存12天守って言われてもプレミア感ないわけだ……!」
彗「佐間さま、玉造にある混浴の露天風呂にも慣れた感じで入ってくのよね……」
しじみ「そっか。昔は混浴が当たり前だったもんね。じゃあ、混浴の話題も……」
しじみ「反応なし」
彗「歴史絡みの話じゃ勝ち目ないわね」
しじみ「うえー……。玉造温泉でも? 日本で一番古い温泉でしょ?」
彗「そうだけど……私が当時を知ってるわけじゃないもの」
しじみ「そっかー……歴史ダメかー……。となると、やっぱり――♪」
彗「それもダメ」
しじみ「ちょ、まだ何も言ってない!」
彗「しんじ湖の夕日でしょ……」
しじみ「そう♪ よく分かったね!」
彗「分かるわよ……。この一ヶ月、夕日の時間になったら抜け出すんだもの」
しじみ「だぁって私、あの景色見ないとムズムズして眠れないんだもん! 日本で一番美しい夕日って言葉に偽りなしだよ! 逆に、彗さんはなんでそんなテンション低いの?」
彗「あなた、しんじ湖の夕日を見ると性格変わるのよ」
しじみ「え?」
彗「……目がトロンとして、歯が浮くような台詞を言うようになるし……」
しじみ「そ、そうだっけ?」
彗「この間一緒に見た時なんて……、はあぁ……」
しじみ「え、ちょ、怖い怖い! 私何やったんですか!?」
しじみ「しかも佐間さまめっちゃ動いてる! 聞き耳ですか! 聞き耳立ててるんですか!? もー! こんなゴシップじゃなくて夕日の方に反応してよー!」
彗「俗っぽいおばあちゃんね……」
しじみ「また寝た!」
彗「風向きが悪くなったらシャットアウト。さすがね」
しじみ「何が!?」
彗「あれだけ動いて、実は起きてるんじゃ、って思うでしょ? でも、これで本当に寝てるのよ。寝ながらにして本能的に反応してるの」
しじみ「どうでもいいよ! ねー起きて佐間さま! うーちーあーげー!」
彗「ふむ……温泉もダメ、歴史もダメ、絶景もダメ……となると、思い切ってあざとい路線で攻めてみるのもいいんじゃない?」
しじみ「どういうこと?」
彗「例えば、玉造温泉の美肌グッズ」
しじみ「美肌って……まあ、確かに私は気になるけど、400年も生きてる佐間さまが今さら……わーっ!? ちょー反応してる!?」
彗「体の中からキレイになる美肌ケーキ。泡の力で汚れを落とす美肌石鹸。玉造の温泉水をそのまま使った化粧水」
しじみ「動いてる動いてる! 商品羅列してるだけなのに!」
彗「しじみ! 貴方も続きなさい!」
しじみ「え!?……さっきと立場逆になったなあ……えと、そうだ! 和菓子! 松江って実は日本三大お菓子どころなの!」
しじみ「よかった、反応してる。お茶菓子、おいしいよ~。あま~いおやつもありますよ~」
しじみ「ねえ! これ絶対起きてるって!」
彗「いや、決定打に欠けるわね……」
しじみ「ウソでしょ!? もうコレ、起きてないとできない動きじゃん! ほら!」
彗「佐間さまなら可能なのよ……!」
しじみ「もー分かんない! 私佐間さま分かんない! こうなったら最終兵器っ!」
彗「なに?」
しじみ「出雲といえば縁結び! 縁結びといえば恋バナしかないじゃん!」
彗「恋? 誰の?」
しじみ「彗さんのに決まってるでしょ!」
彗「はあ? くだらない。私たちは温泉むすめよ。そんなことにうつつを抜かすなんてありえな(いわ)」
しじみ「ほらほらほらほら! すっごい動いてる! これは、続けるしかないんじゃないですかぁ~? 中途半端な作戦は許さないんだもんね♪」
彗「……」
しじみ「というか、知らないの? 彗さん、女子からすごい人気だよ」
彗「知らないわよ。玉造温泉の温泉むすめを珍しがっているだけでしょ?」
しじみ「そういうんじゃないよー! 『黒川姫楽さんと玉造彗さん、あなたが恋人にするならどっち?』ってアンケートも出回ってるくらいだし」
彗「……信じられない……。しかも、なんで私と姫楽なの?」
しじみ「ほら、恋人になったら優しく導いてくれそうな姫楽さんと、厳しく高めてくれそうな彗さん、っていうか♪」
彗「……うちの学校大丈夫かしら……。 ……。一応聞くけど、しじみ。貴方も答えたの?」
しじみ「私は姫楽さんです!」
彗「そうよね……。貴方はそういう子よね……」
しじみ「あ、なんか優しい動きになったね。彗さんを励ましてるのかな?」
彗「大きなお世話よ……」
しじみ「で、で、彗さん。ホントのところ、好きな人とかいないの?」
彗「いないわよ。まだ続けるの?」
しじみ「見て見て見て見て! ほらちょっと目が開いてる! あと一押し! ウソでもいいから思わせぶりに粘って!」
彗「自分でやりなさいよ…………そうね。玉造温泉に、縁結びの効果があるっていう『恋叶い橋』って橋があるでしょ?」
彗「この間……その橋の上で素敵な人に声をかけられてね……何かしら、って思って話を聞いて……」
しじみ「ウソ! まさか運命の出会い!?」
彗「……バス停の場所を教えてあげたわ」
しじみ「なにそれーーっ!?!?」
彗「何って、貴方が話せって言うから」
しじみ「全然だめ! なってない! 彗さん……もう! 私が直々に松江しんじ湖温泉バージョンを教えてあげる!」
彗「どういう意味!」
しじみ「しんじ湖の湖畔……、燃えるような夕焼け……、肩を並べて立つあなた……! そして入る……私の、夕日スイッチ……」
彗「ちょっと、人格変えないで」
しじみ「彗……。見てごらん、この真っ赤な空を。まるで私たちの愛のように燃えているね」
彗「うわ……! 寄って来ないで」
しじみ「紅の空に、つれない君……。私の愛で、君のそのクールな殻を開いてみせる……しじみのように」
彗「しじみ、近っ……! 佐間さまっ! 起きてるんでしょう!? なんとかしてください!」
しじみ「佐間さまは起きないよ。だって、中の人がここにいないもの」
彗「そういうこと言わない! 佐間さまっ! あなたが寝こけてるからこんなことに……え? 何? 『教え子二人の禁断の恋』? ……佐間さま!」

(おわり)

written by Toshiaki Sato

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