○飯坂温泉駅・前
八弥「着いた！　飯坂温泉駅！」

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八弥「イベントの打ち合わせ楽しみだな～！　待ち合わせまで一時間もあるし、何か……（と、見回し）あれ？」
八弥「あ！　泉海ちゃん、歌蓮ちゃーん！」
泉海「あら、八弥さん、おはようございます」
歌蓮「電車で来たんですね～」
八弥「二人とも早いね！」
泉海「実は二人して早く着いてしまって。八弥さんと真尋さんが来るまで近くを散策してみようかと話していたんです」
八弥「いいね～！　わたしも行きたい！」
泉海「ええ。ぜひ一緒に飯坂温泉の魅力を発見いたしましょう」
歌蓮「は～い。わたし、行きたいところがありま～す」
八弥「おっけー！　それじゃ、飯坂ぶらり旅にしゅっぱ～つ！」
○舛七酒店・店内
泉海「……って！　一軒目から酒屋さんに行く人がいますか！」
歌蓮「うふふ♪　『純米吟醸　摺上川（すりかみがわ）』、一度飲んでみたかったんです～」
八弥「（目を輝かせ）着物の真尋ちゃんカッコイイ～！　こういうお仕事もしてるんだ！
　（泉海たちに）あのねっ、真尋ちゃんってわたしのクラスでも大人気なんだよ！」
泉海「真尋さんは頭脳明晰で、空手部でもいい成績を収めてますものね。下級生に人気があるのも分かる気がしますわ」
八弥「だよねだよね！　みんな、王子様みたいって言ってるんだ～！」
歌蓮「そう言えば……。この前、真尋ちゃんと廊下の角で鉢合わせして、ぶつかりそうになっちゃったんですよ～。そしたら、よろけたわたしを咄嗟に抱きとめてくれたんです～。本当に運動神経いいですよね～」
八弥「抱きとめた！？！？」
歌蓮「ひゃっ」
泉海「や、八弥さん？　どうしました？」
八弥「（恍惚）はあぁ～～～～ん……☆　それってこういうことだよね！？」

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歌蓮「（ブリッコ風に）いっけな～い☆　もうこんな時間～☆　早く帰らなくちゃ～！」
真尋・歌蓮「わっ！？」
歌蓮「（よろけて）あっあっ……きゃ～っ！」
真尋「（イケボで）危ない！」
真尋「（イケボで）ケガねーか？　大丈夫？」
歌蓮「ああ……なんて素晴らしい上腕二頭筋……。わたしと付き合ってください?」

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八弥「うきゃ～！　真尋ちゃんカッコイイ！」
歌蓮「なんでわたしが出演を～？」
泉海「だ、だいぶこじらせてますわね……。
ええと、次の場所に行っても？」
歌蓮「はい～。行きましょう～」
八弥「（恍惚）はあぁ……♪　はっ！？　ま、待って！　泉海ちゃん、歌蓮ちゃ～ん！」

○旧堀切邸・前
歌蓮「わ～、素敵な日本家屋ですね～」
八弥「『旧堀切邸（きゅうほりきりてい）』だ！　ここは来たことあるよ！」
泉海「わたくしも一度来てみたかったんです……！　江戸時代からある館で、歴史的価値の高い建物なんですよ！」
八弥「足湯もあるしね！　しかも入館無料だよ！」
歌蓮「へ～。堀切さんは太っ腹ですね～」
泉海「この町に火事が起きた際も、堀切氏は私財を投じて焼け跡の整備に奔走したそうですわ」
八弥「火事……自己犠牲……！（キラキラ）」
歌蓮「八弥ちゃん？」
八弥「（恍惚）はあぁ～～～～ん……☆　それってこういうことだよね！？」

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泉海「（儚げな時代劇の令嬢風に）ああ、火がすぐそこまで……。もう、ダメ……！」
真尋「（以下、イケボで）何をしている！　早くこっちへ！」
泉海「で、でも……足が震えて動かなくて」
真尋「っ！　崩れるぞ！」
泉海「きゃああああっ！」
真尋「っ……大丈夫か？」
泉海「わ、わたくしをかばって……！？　（ハッと）！　あの、血が！」
真尋「俺のことはいい！　早く行け！　俺はこのまま他のヤツらを助けに行く！」
泉海「そんな！？　無茶ですわ！」
真尋「俺は飯坂を守る。泉海、お前がいるこの町をな……。初めてお前を見た時、そう決めたんだ」
泉海「……！（涙にじんで）そんな……そんなこと、どうして今……っ！」
真尋「（大げさに）さあ行け！　そして互いに生き残るんだ。俺とお前の幸せな未来のために！」
泉海「（大げさに涙して）よよよ……。愛しています、真尋さま……！」

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八弥「（続き）どうか、どうかご無事で～！」
泉海「（呆れて）今度はわたくしですか……」
歌蓮「すっかり少女漫画の世界に入り込んでますね～。可愛いです～」
八弥「はっ！　妄想してたらお腹空いちゃった！」
泉海「妄想と空腹にどんな関係が？」
歌蓮「うふふ。そろそろ時間ですし、何か食べながら駅に向かいましょうか～」
八弥「（挙手）はいはい！　わたし、食べ歩きならいいとこ知ってるよ！」
泉海・歌蓮「……？」

○玉手商店・前
歌蓮「ん～、おいしいです～！」
泉海「黄身が固めで濃厚ですわ……！　ラジウム玉子、というんですね」
八弥「えへへ、気に入ってくれてよかった！」
歌蓮「ところで、ラジウムって何ですか～？」
泉海「ラジウムとは、１８９８年にキュリー夫妻が発見した元素のことですわ。そのラジウムが日本で初めて確認されたのが、ここ飯坂温泉のお湯なのです」
八弥「そうそう！　ラジウム泉で作った温泉玉子だから『ラジウム玉子』なの！　この前ここに来た時、真尋ちゃんが教えてくれたんだー！」
歌蓮「なるほど～。八弥ちゃんは一足先に真尋ちゃんと飯坂デートしてたんですね～」
泉海「（裏で戸惑い）ちょっと、歌蓮さん？」
八弥「デート？　……デート！！」
八弥「ひゃ～！！　そうじゃん！　あれってデートじゃん！　つまり……それってこういうことだよね！？」

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八弥「ん～、ラジウム玉子ってホントおいし～！　いくつ食べても飽きないよ～！」
真尋「（以下、イケボで）ふふっ」
八弥「（元気ツンデレ風。照れ）な、何よ」
真尋「いや、おいしそうに食べるなって思ってさ」
八弥「（ドキッと）た、食べてるとこ見ないでよ。恥ずかしいじゃん……」
真尋「見たらいけない？」
八弥「（ドッキーン！）い、いけないとか、そ、そんなことないけど……あ、でも……あぁん、もう知らない！」
真尋「待って。こっち向いて」
八弥「（不満げに）……何？」
真尋「八弥……」
八弥「（ドキッと）なっ、何よ。そんなに見つめたりして……え？　ちょ、顔！　顔近いって！　あの……あ……待って、せめて……せめてリップクリーム塗ってからあ！！」
真尋「取れた♪」
八弥「……へ？」
真尋「ラジウム玉子の殻、髪についてたよ」

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八弥「（恍惚）あぁん！　もぉ真尋さま超カッコイイ！　結婚したい～！」
泉海「髪の毛に殻！？　一体どういう状況ですか！？」
歌蓮「少女漫画ではよくある光景ですよ～。もはや文化みたいなものです～」
泉海「どんな文化ですか！？　というか歌蓮さん、わざと八弥さんのスイッチ入れましたわよね！？」
歌蓮「うふふ～。さあ、駅に向かいましょうか～♪」
泉海「歌蓮さん！　……八弥さんも！　うっとりしてないで行きますわよ！」

○飯坂温泉駅・前
泉海「約束の時間ですが、真尋さんは……」
八弥「あ、来た来た！」
真尋「（だるそうに）お～す……」
八弥「って、大丈夫！？」
泉海「顔が真っ赤ですわ！」
真尋「え？　そうか……？　実は朝から体がだるくてさ、気合入れようと思って、鯖湖湯の熱湯に浸かってから来たんだ……」
八弥「そんな……温泉だけでそんなになるわけないよ！」
真尋「いやいや、もうバッチリだぜ……。たまに（咳をして）咳が出るくらいでよ……」
歌蓮「あの～……」
真尋「ん？」
歌蓮「真尋ちゃん、もしかして風邪では？」
真尋「かっ！　かかか風邪！？」
歌蓮「ちょっとおでこ触りますね～」
真尋「ひっ！」
歌蓮「あ～、やっぱりお熱ありますね～」
真尋「ちっ、違う違う！　あたしは断じて風邪じゃない！　なっ、八弥、泉海！」
八弥「風邪だね」
泉海「風邪ですわね」
歌蓮「ほら～」
泉海「（絶望）あ……あ……。うわあああああーーーーっ！」
泉海「真尋さん！？」
真尋「（悔しく、徐々に弱気に）ううっ……！みんな、ごめん……。あたし、あたし……　こんなご時世に……大事な打ち合わせの日にぃ……！」
泉海「そんな……仕方のないことですわ」
八弥「そうだよ！　風邪なら治せばいいし、（少し嬉しそうに、ぐへへという感じ）なんならわたしがつきっきりで看病――」
真尋「（弱々しく泣いて）うっ……うっ……！　うええぇぇん……！」
一同「（ぽかん）え……？」
真尋「（ぐずりながら）力が入んねえ……フラフラするぅ……。誰か、助けて……」
八弥「助けて！？　え、今助けてって言った！？　真尋ちゃんが！？」
歌蓮「大丈夫ですよ～、真尋ちゃん。お薬飲んで安静にしてたら治りますからね～」
真尋「（ぐずりながら幼児化して）歌蓮ママぁ～……！」
八弥「ママ！？」
泉海「えと、まずは病院に行きましょうか」
真尋「（ぐずりながら）泉海パパぁ～……」
八弥・泉海「パパ！？」
歌蓮「うふふ。いるんですよね～、病気になると急に弱気になっちゃう人って～」
八弥「弱気どころか赤ちゃんになっちゃってるけど！？」
真尋「（ぐずりながら）パパ、ママ……。おねがい……おてて、繋いでて……」
歌蓮「はいは～い♪」
泉海「じょ、状況が分かりませんが……はい。これでいいですか？」
真尋「（ぐずりながら）ん……」
歌蓮「ではでは～、病院にれっつごー♪」
八弥「……え？　ちょっと待って。強くて頼りがいのある真尋ちゃんはどこ行っちゃったの？　わ、わたしの王子様はぁ～っ！？」

（おわり）

written by Miyuki Kurosu