story おはなし

「petit corollaバズらせ大作戦」第一話「……最終手段、つかっちゃいますかね」

―――― petit corolla ――――

 君は知っているか。『温泉むすめ日本一決定戦』に大波乱を起こすそのアイドルユニットの名を!
 君は感じているか。蒼天に咲き誇る可憐な花のように瑞々しい彼女たちの才能を!
 スーパーカリスマアイドルユニットpetit corollaの、愛と勇気と栄光の物語が今、始まる――

 ――なんてこともなく。

「な、なによこれーーーッッ!!!」

 昼休みの穏やかなひと時を切り裂く城崎亜莉咲の絶叫に、道行く生徒たちが振り返った。

 ここはお台場、温泉むすめ師範学校。街を彩る緑が少しずつ濃さを増すように、温泉むすめ日本一決定戦も少しずつ盛り上がりを見せ始めた六月一日のことである。petit corolla――「プチコロ」のメンバー四人は青々と葉を茂らせた中庭の樹の下に集い、嬉野六香のスマートフォンを覗き込んでいた。

 甘い眠気を誘う木漏れ日が彼女たちに注いでいる。だが、その顔色はそろいもそろって暗い。

「えっと、これって……」

 伊香保葉凪はショックのあまり二の句も継げず、他のメンバーの顔をきょろきょろと見まわした。

「あははっ、なんか逆に面白くなってきたんだけど。ウケる~」

 緊張感に耐えられなくなったのか、嬉野六香は暗い顔から一転してあっけらかんと笑い出す。

「笑っている場合じゃありません。見間違えという可能性もあります。もう一度、確認してみましょう」

 ただひとり全く表情を崩さずにいた伊東椿月が言うと、彼女たちは再びスマートフォンの画面に視線を落とした。
 その画面には、プチコロと同じようにアイドルとして活動している温泉むすめたちのSNSアカウントが表示されている。六香が慣れた手つきでブラウザのタブを切り替えるのに合わせて、葉凪たちはそれぞれのアカウントの「フォロワー数」を確認しなおした。

 “Adhara”公式アカウント:100,000フォロワー
 “SPRiNGS”公式アカウント:40,000フォロワー
 “petit corolla”公式アカウント:97フォロワー

 そう、97フォロワー。

 他のユニットがフォロワー数を順調に伸ばしている中、プチコロの公式アカウントは未だに97フォロワーなのである。まさかの二桁、100人未満。そこいらの一般人レベルである。

 厳しい現実、認めたくない事実。怒りと悲しみに包まれた亜莉咲ができることは、ただ天に向かって叫ぶのみ。

「あぁーーーー! 認めない! こんなの絶対に認めないんだから~~!!」
「えっと……あ、亜莉咲ちゃん、落ち着いて~っ!」

 長い髪を振り乱して荒れ狂う亜莉咲を、葉凪が優しく止めようとする。
 直情的な亜莉咲をなだめるのは同級生の葉凪の役目である。分け隔てのない優しさと包容力を買われてプチコロのリーダーに抜擢された葉凪だったが、いかんせん優しすぎるのが玉にキズ、いまいち迫力に欠ける彼女の制止では今日の亜莉咲は止まらなかった。


「これが落ち着いていられる!? 97人……私たちのフォロワー97人! 輪花、楓花よりも、圧倒的に下……ッッ!!」

 亜莉咲は葉凪を振りほどき、不倶戴天のライバルである姉妹の名前を出して地団駄を踏んだ。
 有馬輪花と有馬楓花。兵庫県は有馬温泉の温泉むすめであるその姉妹は、4万フォロワーを誇るアイドルユニット、『SPRiNGS』のメンバーである。同じ兵庫県の城崎温泉を愛する亜莉咲は何かと有馬姉妹をライバル視していた。

「ぐぬぬ……私たちが負けてるなんてぇ……く~や~し~い~!」

「まあ、こんなこともありますよね。残念です」

 まるで残念そうもなく呟いたのは椿月であった。
 椿月はみかんを掌に載せ、丁寧に皮を剥いている。突然の甘味タイムだ。
 どんな時でも絶対不変のマイペースなのが伊東椿月である。怒りに燃える亜莉咲は彼女に食ってかかった。

「ちょっと椿月! あんたなんで動じてないのよ! 悔しくないの!!?」
「どうこう言っても事実ですし。私たちのフォロワーは97人。負けです」
「うぐッ」
「そもそもSNSのフォロワー数を確認しようと言い出したのは亜莉咲さんですよね。自爆では?」
「ぐうう……」

 亜莉咲、撃沈。

「おぉ……さすが椿月ちゃん」

 たった二発で亜莉咲を黙らせたその手腕に葉凪は惜しみない拍手を送った。みかんを口に放り込んだ椿月は、表情を全く変えないままピースサインで葉凪に答えた。

 そう、事の発端は亜莉咲なのである。
 通りすがりの有馬姉妹がSNSのフォロワー数の話をしていたのを耳にして、対抗心に駆られた亜莉咲が自分たちのSNSアカウントのフォロワー数を知りたいと言い出したのだ。

 ちなみに現実を知るまでの彼女の自己評価は「SPRiNGS+1フォロワーは当然いるはず」であった。

『ふふん! 私たちのフォロワー数を見せつけて、輪花と楓花に負けたって言わせてやるんだから!!』

 これが5分前の亜莉咲の言葉である。調子に乗りまくっていただけに、この敗北は無残としか言いようがない。

「大体ですね、この数か月アイドル活動を行っているにもかかわらず97人しかフォロワーを増やせなかった私たちの方がどうかしてます。SPRiNGSに怒りをぶつける前に、自分たちの不甲斐なさを顧みるべきかと」

 みかんをひょいひょいとつまみつつ言う椿月。まるで他人事である。

「私たちのことはどうでもいいのよ! 問題なのはフォロワーが97人なことじゃない、SPRiNGSに負けたという事実なの! SPRiNGSのフォロワーが96人だったら、あたしはこんな悔しくないもん!!」
「こじらせすぎだよ、亜莉咲ちゃん……」

 あくまでもSPRiNGSにこだわる亜莉咲に、さすがの葉凪も苦笑いである。

「よし! 今こそ一丸となって、打倒SPRiNGSを――」
「見て見てみんな~! めっちゃヤバい写真撮れた~~☆」
「うおおおい!」
「ほら、亜莉咲ちゃん! どう、あたしの自撮り! いい感じで映えてない?」
「自撮り!? 何の話よ!?」

 演説でも始めようかという勢いの亜莉咲の前に割り込んできたのは六香だった。
 伊東椿月が静のマイペースといったら、この嬉野六香は動のマイペースといえる。
 己の好奇心の赴くまま行動する彼女は、時にまったく予想外の行動をとる。しばらく声が聞こえなかったら要注意。

「しかも絶妙によく撮れてるのが余計腹立たしい! このっ、こんな写真こうしてやる!!」
「あーっ、ヒゲ描いちゃダメ!! 亜莉咲ちゃんひど~い!」
「あんたが勝手なことしてるからでしょうが!」

 亜莉咲と六香は写真が表示されているスマホをわちゃわちゃと取り合い始めた。
 そんなふたりを見つめ、椿月がぽつりとこぼす。

「こんなことばっかりやってるから、フォロワーが97人なんですよね」
「楽しいんだけどねぇ……。あ、そういえば」

 プチコロの日常の1ページである亜莉咲と六香のじゃれあいを眺めていた葉凪は、ふと首を傾げた。

「亜莉咲ちゃん」
「なに!」
「亜莉咲ちゃん、今までフォロワーの数が少ないことに気づかなかったの? SNS担当だよね」

 言われた亜莉咲はピタリと動きを止める。

「え、違う。私じゃないわよ」
「あれっ、じゃあpetit corollaのアカウントってだれが管理してるの……?」

 葉凪の問いに、亜莉咲はさも当然と言わんばかりに顎をしゃくって六香を示した。

「六香でしょ。こういうの一番詳しいの六香なんだもん。
……ってか、そうよ! なんでこんなフォロワー少ないって言ってくれなかったの!?」

 再び亜莉咲に詰め寄られた六香は慌てて否定する。

「ちょ、ちょっとまって! 担当あたしじゃなくて椿月ちゃんだよー! こういうのは冷静な椿月ちゃんがやるのが一番いいよねって話したよね!? ね、椿月ちゃん!」

 六香は椿月を見る。しかし、椿月は無表情のまま目をぱちくりさせた。

「そんな話は知りませんが……」
「あ、あれっ?」
「一応答えておくと、私は葉凪ちゃんだと思ってました。だってリーダーですから」

 椿月が隣に座る葉凪に目をやると、その視線を追って亜莉咲と六香も葉凪を見た

「えっ、えっ、わたし?」

 自分に水が向けられると思っていなかったらしい葉凪は、一同の顔をせわしなく見渡すと、みるみる小さくなって申し訳なさそうにポツリと呟いた。

「ごめん。その……最初に言った通り、わたしは亜莉咲ちゃんだって思ってたんだけど……」

 四人は顔を見合わせた。

「これはつまり……みんながみんな、SNS担当は自分じゃない、って思ってたのかな」

 葉凪が言うと、亜莉咲、六香、椿月は「……そうみたい」と頷いた。

「うそでしょ……毎日会ってるのに誰も気づかなかったなんて、そんなことある……?」

 亜莉咲はがっくりとその場にへたり込んだ。「現に今あったじゃないですか」と突っ込む椿月からも珍しく脱力感がにじみ出ている。

「投稿もほとんどされてないから、おかしいなあと思ってたんだけど……」
「「はあ……」」

 しょぼくれた葉凪の一言に、亜莉咲と椿月は溜息で返すほかない。

「えーっと、へこんでるところに大変申し上げにくいんだけどー……」

 と、六香がおずおずと手を上げた。

「ま、まだ何かあるの、六香ちゃん……?」

 葉凪が尋ねると、六香は気まずそうに自分のスマホを差し出した。
 画面に映っているのはプチコロアカウントへのリプライである。捨てアカウントからのメッセージらしい。
 それは、こんな内容であった。

『なりきり垢なんだったら、せめてコンスタントにツイートするくらいのことはしてください』

 亜莉咲はもがいた。そのびちびちと蠢くさまは、まるで陸に上げられた魚であった。

「ぐあああ! こんなのウソよ~~!!」

 対照的に六香は天を仰ぐ。そして、噛み締めるように呟いた。

「ゴメン、名も知らないファンの人。このアカウント公式なんだわ……」

 公式アカウントがなりきりアカウントと勘違いされたアイドルグループ・petit corolla。温泉むすめ界では初の偉業である。
 転げまわる亜莉咲と直立不動の六香を見比べて小さくため息を吐くと、椿月は葉凪に言った。

「もういっそのこと、このアカウントは消して新しく作ったほうがいいのではないでしょうか?」
「うん。そうかもね。ちゃんと担当をきめて、次こそはしっかりと運用して――」

 椿月と葉凪が建設的な意見を交わしていると、キッと顔を上げた亜莉咲が叫んだ。

「やだ! それだと負けを認めたみたいじゃない! このアカウントは輪花と楓花も知ってるのよ!」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうよ! だからアカウントはこのまま、なんとかフォロワー増やすわよ!」

 立ち上がり、鼻息荒く力説する亜莉咲。並々ならぬ打倒・SPRiNGS――もとい打倒・有馬姉妹への熱意である。
 歪んだ熱意とはいえ、ここまで言われたら葉凪も友人としてその想いを否定するわけにはいかなかった。

「うんと……えっと……亜莉咲ちゃんがそこまで言うなら、それでいいんだけど」
「では、もはや死に体と言っていいこのアカウントをどうやって復活させましょうか」

 葉凪が言い澱んでいると、椿月が引き取り言葉を続けた。

「ぬぅ……。確かにそれは難しい問題だけど……」

 亜莉咲にも妙案はないようで、彼女は眉根を寄せて黙りこくった。
 顔を突き合わせて唸る三人。三人寄れば文殊の知恵とは言うものの、中々いい案は浮かばない。では四人寄れば知恵が生まれるかというと、プチコロの四人目は「知恵」という言葉からは最も縁遠い人物――のはずなのだが、

「あたしに考えがある」

 その四人目から透き通るような声音が響く。六香であった。

「えっ!?」

 思いがけない人物からの思いがけない発言に、一同は目を見開いた。
 瞬間、風が吹く。

「うっ……!」

 強風に煽られた葉凪、亜莉咲、椿月は思わず目を閉じた。

「……最終手段、使っちゃいますかね」

 目を開けると――陽光を一身に浴び、神々しさすら感じさせる六香の立ち姿が飛び込んできた。

 この不思議な迫力――これは「最終手段」に対する自信がゆえにそう見えるのだと、葉凪たちは直感した。

「みんな、ついて来て……!」

 堂々と歩き出す六香。顔を見合わせる三人も誰とはなしに頷くと、先を行く六香に続いた。
 六香はまっすぐに中庭を突っ切っていく。その行先は葉凪たちにはわからない。だが、ついていけば確実に事態を打開してくれる、そう感じさせるほどに六香の足取りは確信に満ち溢れていた。
 亜莉咲は六香の背中を見つめて笑った。葉凪も目を輝かせている。

「かつてないほど六香が頼もしく見えるわ……!」
「うん! 六香ちゃんとお友達でよかった……!」

 そうして辿り着いた場所は校長室である。

「たのも~~~~!!!」

 重厚な造りの扉を六香が音高く開けると、温泉むすめを統括する天上神・スクナヒコが校長席に座っていた。その周囲には湯気の立つ湯呑とお茶請けの菓子がふよふよと浮かんでいる。
 神通力である。ほとんど人間と変わらない温泉むすめとは違って、スクナヒコはいわゆる神さまらしい力を存分に振るうことのできる存在だった。

「な、なんじゃ……?」

 そのスクナヒコが、目を見張った。
 迷うことなく校長室の室内へと歩を進めていく六香。
 いや増す緊張感に圧倒された葉凪たちは、ただ言葉を呑んで見守った。
 六香がスクナヒコの目前に立った。今まさに、彼女の唇がゆっくりと開かれていく。
 遂に明かされる「最終手段」。その全貌とは――。

「フォロワー増やしてください、スクナヒコさま」
「神頼みーーーーーーー!?」

 葉凪と亜莉咲は絶叫した。

〈続く〉

著:山崎 亮

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