story おはなし

「petit corollaバズらせ大作戦」第二話「100まーーーーーん!!!」

第一話「……最終手段、つかっちゃいますかね」はこちら

「ダメじゃ」

 スクナヒコの返答は取り付く島もなかった。

「え~! なんで!? スクナヒコさまの力ならフォロワー増やすのなんて一瞬でしょ!!
いいじゃんケチケチケチ~!」
「そんな方法で増やしてどーするんじゃ。ハリボテのフォロワーじゃろ」
「最初はハリボテでいいの! SNSは富めるものがどんどんフォロワーを増やす弱肉強食の世界なんだから!」

 渾身の案をばっさり却下されたのが納得いかないのか、六香はスクナヒコに食い下がる。
 葉凪、亜莉咲、椿月は校長室の入口付近に立って、やり合う彼女たちの様子をはらはらと見つめていた。

「葉凪、これ、絶対厄介なことになるわよね……」
「うん。スクナヒコさま、また無茶なことを言いだす気がする……」

 亜莉咲が隣に立つ葉凪に小声で語りかける。
 スクナヒコは温泉むすめ達を統括する温泉の天上神――いわば温泉むすめの上司であり、温泉むすめ師範学校の校長でもある。だが、その性は実に破天荒。いつも突拍子もない企画を思いついては温泉むすめ達に無茶振りし、彼女らを混乱に陥れる、実に神さまらしい存在なのだ。

「急いでここを出ましょう」

 滅多に表情を変えない椿月も珍しく苦い顔をしていた。
 葉凪と亜莉咲も直感した。このフォロワー数騒動、スクナヒコに深入りされたら絶対に厄介なことになる、と。
 三人は目顔で頷き合う。言葉にしなくても思いはひとつであった――逃げよう!

「えっと、スクナヒコさま! というわけで、わたしたちの用事は済みましたので!」
「帰るわね! お騒がせしました~~っ!」
「え、えっ!? 葉凪ちゃん、亜莉咲ちゃん、どーしたの!?」

 葉凪と亜莉咲は両側から六香の腕をがっしと抱え、扉を目指して脱兎のごとく駆け出した。
 だが時すでに遅し。
 先行していた椿月がドアノブを握り、引く――しかし、

「あれ……?」

 扉が開かない。ノブを回し、何度も押し引きしてみるが、まるでびくともしない。入るときはまったく問題なく開閉したはずの扉が。

「ま、まさか……」

 声を震わせて亜莉咲が呟いた。

「こらこら、誰が帰っていいと言ったかの~?」

 背中越しに、世にも優し気で、世にも恐ろしい声が聞こえてくる。

「 逃 が さ ん ぞ ? 」
「ひぃぃぃ~~~!!!」

 葉凪と亜莉咲は世にも哀れな悲鳴を上げた。
 振り返ると、満面の笑みをたたえたスクナヒコが言った。

「petit corollaバズらせ大作戦、開始じゃ~~!!」

 葉凪と亜莉咲の不安は見事に的中したのである。彼女たちの意思などどこ吹く風、スクナヒコの思いつきにより、今ここになんとも厄介そうなイベントの開催が宣言されてしまった。

「期限は年内! その間に10万フォロワーを目指すのじゃ! 達成できたら褒美を、達成できなかったら罰ゲームをくれてやる!」
「ご褒美!?」
「ば、罰ゲーム……!?」

 喜ぶ六香におののく亜莉咲。
 スクナヒコは人差し指をふりふり、いかにも勿体つけて続ける。

「せっかくわしを頼ってくれたのに、何の助力もしないのは心苦しいからのう……。どうじゃ? フォロワーを増やすにも面白い方法でやったほうがよかろう」

 顔を見合わせる4人。スクナヒコの企画というだけで嫌な予感しかしない。だが、やるなら確かに面白いほうがいい。目標があるのもモチベーションに繋がる。
 はたして乗るべきか、乗らざるべきか――4人の迷いが頂点に達したその時、声高に葉凪が叫んだ!

「集合! プチコロお話しターイム!!」

 葉凪が両手で「T」を形作り、スクナヒコにタイムを要求する。それに合わせて亜莉咲、椿月、六香が葉凪のもとに素早く集合し、車座になった。
 これぞ困った時のプチコロ必殺「お話しタイム」。数多の問題を解決してきた、彼女たちとっておきの作戦だった。

「どうかな、みんな。確かに元々は『フォロワーを増やしたい』って話だったけど……」葉凪が言うと、
「絶対にやめた方がいいわよ。だってスクナヒコさまの提案よ!?」亜莉咲が鋭く主張した。
「でもさー、ご褒美っていうのはちょっと気になるよね~」六香はなにやら夢見る表情で、
「私はどっちでもいいです。葉凪ちゃんは?」と椿月が問いかける。すると葉凪は小首をかしげ、
「わたし? わたしは……う~ん」
「ちょ、今熟考しないでよ!? あんた考え出すと長いんだから」

 ゴニョゴニョゴニョ――子猫のようにぴったりと身を寄せ合ってお話タイムに励んだ4人は、やがてスクナヒコに向き直った。
 こほん、と小さく咳ばらいをすると葉凪が一歩進み出る。

「スクナヒコさま、せっかくのご提案ですが、辞退させていただきます!」
「ほう?」
「97人のフォロワーを今年いっぱいで10万に増やすのはさすがに無理という結論になりました!」

 堂々と胸を張って言い放つ葉凪。これぞリーダーの面目躍如である。だが――、

「ふむ、そうかそうか……それはつまり、お主はやる前から諦めるということなのじゃな……?」

 ニヤリと笑うスクナヒコ。はっとして葉凪はスクナヒコを見つめ返した。

「葉凪。お主は優しく責任感も強く素晴らしい温泉むすめじゃ。だがの、大事な所で思い切りが足らんのじゃーーっ!」

 意気天を衝くスクナヒコの大喝に、葉凪の体を稲妻の如き衝撃が駆け抜けた。

「ま、まさかスクナヒコさま……わたしの成長のためにこの企画を……!?」

 スクナヒコは白い歯を見せて輝くように笑うと、サムズアップ。

「お主ならできると信じておるぞ、葉凪」
「は、はい! わたし頑張りますね!!」

 リーダー葉凪、あっさり懐柔される。お話しタイムとはなんだったのだろうか。
 そんな彼女にかわって、面倒くさそうに椿月が進み出た。

「いやいや、流されないでください葉凪ちゃん。いい感じの事言ってますけど、スクナヒコさまは私たちでヒマつぶししようとしてるだけですよ」
「ギクーーッ!!」
「そんなわざとらしく飛び上がっても駄目です。いにしえのコント番組みたいなリアクション取られても私困ります」
「なんじゃなんじゃ、椿月はノリが悪いの~」

 椿月はじっととスクナヒコを見すえる。と、不意にその右手を六香が取った。

「やっぱり面白そうだしやってみようよ椿月ちゃん」
「えっ。でも、さっき辞退しようって決めたじゃないですか」
「だってあたしご褒美欲しいんだもん!!」
「ええ……?」

 困惑する椿月の左手を、さらに葉凪がぎゅっと握る。

「椿月ちゃん! わたしもこの企画で成長したい!」
「いや、だからそれは方便で……」
「……ね、いいでしょ?」
「う……」

 六香と葉凪はキラキラと目を輝かせて椿月を見つめる。
 椿月はそんな二人を見つめ返すと小さく溜息をついて、そしてほんの一瞬、微笑んだ。

「……まあ、皆さんがそれでいいなら」
「ちょ、ちょっと何みんなあっさり流されてんのよ! 断固拒否よ! 拒否!!」

 そう叫んだのは亜莉咲だ。スクナヒコはさも意外そうに首をかしげる。

「ん? なんじゃ亜莉咲。お主は当然やる気じゃと思っておったのだが」
「そんなわけないでしょ! 私たちただでさえ忙しいのに、その上こんな謎イベントまでこなさなきゃならないなんて無理!!」
「ほ~ん。で?」
「……え? いや、『で?』って言われても、今言った通りで」
「んー……。そんなあまっちょろいこと言っとるからフォロワー97人なんじゃよなー……」

 白々しいスクナヒコの言葉に、ピクリと亜莉咲の眉間にしわが寄る。

「ぐぬ……」
「そうかそうか。亜莉咲、お主はもうちょい気骨のある娘じゃと思っとったんじゃが。そもそも今回のことは、お主がSPRiNGSにフォロワー数で負けたくないと言い出したのがきっかけのはずじゃろ?」
「ぐぬぬ……!」
「えーと、SPRiNGSは4万フォロワーで? petit corollaは97フォロワー? うぷぷ! お話にもならんのう。
 あっ! 失敬失敬、つい笑ってしもうた。いやあしかし、こりゃあ輪花と楓花に勝つなんて夢のまた夢じゃな。まあ見果てぬ夢を見続けるというのもロマンがあってよろしかろう――」
「100まーーーーーん!!!」

 突如、亜莉咲が吼えた。

「へっ?」

 スクナヒコ含め、その場にいた全員が亜莉咲の猛獣めいた咆哮に目を見開く。

「100万フォロワー! 私たちは100万フォロワーを目指すわ! 10万とかそんなしけた数字じゃ私たちには物足りない!!」
「ええっ!!?」

 この発言に、葉凪、六香、そして椿月までもが声を上げて驚いた。10倍である。
 売り言葉に買い言葉の亜莉咲の宣言にふっかけた当人であるスクナヒコもポカンとしていた。だが、やがてくつくつと笑い出し、その声は大笑いへと変わっていった。

「あっぱれじゃ、亜莉咲! 今の言葉に二言はなかろうな?」
「もちろんです! SPRiNGSには……というか輪花と楓花にはぜえーーーったいに負けないんだから!」
「こりゃ面白くなってきた! その心意気に応えるには、褒美も特別豪華なものにしてやらんといかんの」
「それですそれです、スクナヒコさま! ご褒美ってなんなんですか!?」

 六香が息せき切って食いつくと、スクナヒコは腕組みをしてしばらく考え、こう言った。

「何でも願い事を叶えてやる! と言いたいところだが、それは日本一決定戦の賞品じゃしなあ……。
そうじゃの、見事フォロワーが100万に到達したあかつきには、わしとっておきの温泉に招待してやろうか。正真正銘の神の湯。それはもうこの世の極楽――歴代の温泉むすめ、誰一人として入ったことのない秘湯中の秘湯よ」
「神の湯!?」

 六香は声を弾ませた。

「椿月ちゃん聞いた!? 誰も入ったことない温泉だって! うわぁぁ! テンション爆上がるーー!」
「はあ……。結局温泉ですか」

 淡々と肩をすくめる椿月だが、その頬にはほんのり朱がさしている。どうやら彼女にとっても心惹かれる褒美だったらしい。
 なにせ彼女たちは温泉むすめ。温泉には目がないのだ。

「でも今年いっぱいに100万フォロワーって、本当にできるのかな……」
「やれるかどうかじゃない、やるの! 葉凪、私たちならできる!」
「亜莉咲ちゃん……」

 身も蓋もない根性論ではあるが、覚悟を決めた時の亜莉咲の思い切りの良さを葉凪は信頼している。こう強く言い切られると、本当にできそうな気がしてくるから不思議なものだ。
 葉凪は、むん! と気合を込めると頷いた。

「そうだね、私たちならできるよね!」
「この試練を乗り越えた時、petit corollaは100万の観客を湧かせるスーパーアイドルとなっているじゃろう――ふふふ、なんて温泉むすめ思いなわし」

 プチコロの面々が盛り上がるさまを見つめさも満足げに頷くと、スクナヒコは宣言した。

「さあ、petit corollaよ! 見事フォロワーを100万人まで増やして見せるがよい! お主たちの頑張り期待しておるぞ!」

 葉凪、亜莉咲、椿月、六香は顔を見合わせ頷いた。
 リーダー葉凪が高らかに号令をかける。

「みんな! 頑張ろうね!」
「おー!!」

 こうして、一年以内に100万フォロワーという無理難題に挑戦することになったpetit corolla。果たして彼女たちは無事に課題を達成できるのか? そもそも一体どのような方法で増やすのか? 勢いだけで始まったこの企画の未来は誰にもわからない。
 なお、失敗したときの罰ゲームの内容が明かされていないことに誰一人気づいていないのは、なんともプチコロらしい呑気な有様であった。

第三話「悩む美少女は、それだけで価値がある……!!」

著:山崎 亮

SHARE

一覧に戻る

温泉むすめとは?

温泉むすめとは、全国各地の温泉をキャラクター化して、
アニメーションや漫画、ゲームなどのメディア展開を行いつつ、
ライブ・イベントで全国行脚して日本中をみんな一緒に
盛り上げちゃおうというプロジェクトなのじゃ!

温泉むすめ ANIME アニメ EVENT イベント LIVE ライブ GAME ゲーム COMIC コミック