story おはなし

「誕生!LUSH STAR☆」第4話 青春大好きスポーツ少女、指宿絵璃菜!

第3話 「ガキんちょお姫様!?白浜帆南美」はこちら

 どっかに青春ができる部活はないかなー。

 と、えりなは思った。

 昼休み。1年B組のみんなはお弁当を食べ終わってすっかりくつろいでいる。だけど、えりなはいつもなら5秒でたいらげる焼きそばパンを今日はちまちまかじりながら、白紙の入部届と睨めっこをしていた。

 「指宿絵璃菜」と名前だけ書かれた入部届を前に、進学してから今日までに体験入部した部活を振り返ってみる。

 陸上部、水泳部、テニス部、空手部、ワンダーフォーゲル部――いろんな部活に行ってみたけど、まだ「これだ!」って思う部活はない。

 三年前、中等部に進学した時もこんな感じだった。

 中等部では結局どこにも入部しないで、三年間、メンバーが足りないとかの理由で呼ばれた時だけいろんな部活に飛び入り参加する助っ人のまま卒業しちゃったのだ。

 だから、高等部の三年間こそどっかに入部して青春がしたいんだ!

 ないかなー、青春ができる部活。青春ができる部活。青春が……青春……あれ?

 

「そーいえば、青春って何だ……?」

 

 えりなは考えた――んで、すぐわかった! 青春は青い春って書くから、たぶん春のことだなーって!

 ん? でも青ってなんだ? 春の……、青……い空? 青……い海!

 おー! そっかー、青春って春の風景をあらわす言葉だったんだなー!

 えっ? ちょっと待った。青い空も青い海も、別に春じゃなくてもある……。夏も秋も冬もある!

 ってことは、青春って春のことじゃないのか?

 となると、えっと……えっと……。

 

「うー……。なんか頭が痛くなってきたぞー……」

 

 えりなは入部届をバンと机に置くと、勢いよく椅子から立ち上がった。

 よし! ちょっくらそのへんを走ってこよう! こんな時は走るのが一番だ。走って汗かけば頭も体もスッキリするしなー!

 そう思って、えりなが教室を出ようと廊下に向かった時。

 

「お?」

 

 えりなは床に何かが落ちてることに気付いた。

 拾ってみると、それは折り紙でできた人形だった。丸い頭にペンで顔が描かれている。優しい顔をした女の子だ。黒髪のおかっぱ頭で、体には赤い線や花の模様があって……。

 あれ? もしかしてこれって――。

 

「こけし……?」

 

 うん、折り紙のこけしだ。「折り紙でこけしを作ろう」なんていう授業はなかった気がするから、クラスの誰かが落としたのかな?

 そうと分かれば、落とし物は早く持ち主に返してあげないとなー!

 えりなは折り紙のこけしを掲げて、みんなに聞こえるように大きな声で言った!

 

「おーいっ!! みんなーっ!! これ誰の――」

「絵璃菜ちゃあぁぁぁーーーーーん!!!」

「むぐっ!?」

 

 ――気付くとえりなは、銀山心雪ちゃんに手で口をふさがれていた。

 

「……絵璃菜ちゃん。ちょっといいかなぁ……?」

 

 心雪ちゃんの眼鏡の奥で、いつもは穏やかな目が鋭く光った――。

 

♨      ♨      ♨

 

 それからえりなは心雪ちゃんに連れられて、誰もいない空き教室にやってきた。

 なんでここに連れてこられたのかよくわかんなくてポカンとしていると、赤い顔をした心雪ちゃんが小さな声で言った。

 

「あ、あのね……。絵璃菜ちゃん、それ、私のなんだ……」

「へっ?」

「そっ、その折り紙……」

 

 そう言って、心雪ちゃんはおずおずと折り紙のこけしを指差す。

 

「おー! なんだぁ、このこけし、心雪ちゃんのだったのかー!」

 

 えりなが折り紙のこけしを返すと、心雪ちゃんはホッとしたように笑った。

 

「拾ってくれてありがとう……。それと、さっきはごめんね。なんか恥ずかしくて……」

「別にいいよー! ところでそれ、心雪ちゃんが作ったのかー?」

「う、うん……」

「へー。心雪ちゃんって器用なんだなー!」

「えっ!? そ、そんなことないよ……」

「器用だよー! えりなは不器用だし大ざっぱだから、折り紙って苦手なんだよなー。そんなかわいいこけしなんて絶対作れないぞ!」

「そ、そうかなぁ? 割と簡単だと思うけど……」

「でも、なんでこけし作ったんだ? 心雪ちゃん、こけし好きなのか?」

「へぇっ!? ……えっと、それは、あの……」

「? 好きじゃないのかー?」

「そっ、そんなことは!!」

 

 心雪ちゃんはそう叫んで――すぐにハッとした顔になった。そして耳まで茹でダコになったその顔を折り紙のこけしで隠して、恥ずかしそうにこう言った。

 

「……好き。です……」

 

 なーんだ! やっぱ好きなんじゃないか! だから本物そっくりに作れるんだなー!

 なんて、えりなが感心していると――心雪ちゃんはポツリと続けた。

 

でもこれは、こけしであってこけしじゃ無い。

「……へ?」

 

 首をかしげるえりなをよそに、まるで別人のように険しい顔をした心雪ちゃんは、折り紙のこけしをいろんな角度から眺めながら続ける。

 

「本当はもっと髪短いし、体の花の位置はもうちょっと右だし、折り紙だからこけしの木目までは表現できなくて……。それにこの表情、なんか子どもっぽい。こけしはひとつひとつ表情が違うのが魅力ではあるんだけど、やっぱりスガコさんのあの素朴な可愛さを再現するのは至難の業だねぇ……。スガコさん、許してちょんまげ……」

 

 な、なんだか突然知らない名前が出てきたぞ。誰だ? スガコさんって。

 

「スガコさん? スガコさんって誰だー?」

 

 えりなは思ったことをそのまま口に出した。

 すると――心雪ちゃんは途端に目を輝かせてしゃべり出した!

 

「あのね、スガコさんっていうのは私が大切にしてるこけしの名前なんだぁ。小さな頃におばあちゃんからもらって、それからいつも持ち歩いてるんだよぉ。なんでスガコさんかというと、私の住んでる山形県の銀山温泉は有名な朝ドラの舞台になったところで、あ、朝ドラって知ってる? 最近の子は観ないかなあ……。NHKで毎朝やってる連続ドラマなんだけど、驚き桃の木山椒の木、銀山温泉がその舞台になったことがあったんだぁ!

 でね、やっぱり銀山温泉の温泉むすめとしては、名作を世に生み出してくれた脚本家の先生に敬意を表さないとって思って、あれ、どこまで話したっけ、おばあちゃんからもらったって話したっけ? した? そうそう、それでこのこけしに『スガコさん』って名付けたんだぁ。

 んでまぁ、今日はスガコさんを折り紙で作ろうとトライしてみたんだけど、やっぱり瓜二つってわけにはいかなくてねぇ。折り紙のほうは、スガコさんっていうよりスガミちゃんって感じかなぁ……なーんて考えながらぼおっと歩いてたら、いつのまにかポッケからスガミちゃんがなくなってて、いやー焦ったよぉ……」

 

 ニコニコ話し続ける心雪ちゃんを見て、えりなはびっくりした。

 心雪ちゃんって、こんなにたくさんおしゃべりする子だったのかー!!

 確か心雪ちゃんとは初等部の頃に一度だけ同じクラスになったことがあるけど、えりなとは別のグループだったし……。

 あれ? もしかしたらえりな、心雪ちゃんと二人で話をしたのって今日が初めてかも?

 そう思ったら、えりなはなんだか心雪ちゃんに興味が湧いてきて――ひとつ聞いてみたくなった。

 

「なー、ちょっといいか?」

「ぷきゃゎぁっ!?!? は、はい?」

「心雪ちゃんはどの部活に入るんだー?」

「へっ? ぶ、部活?」

「うん! どっか入るだろー?」

 

 心雪ちゃんは「部活ねぇ……」と苦笑いをする。「気になってるところはあるんだけど……」

 

「おーっ、いいじゃん! どこ? どの部活?」

「奇術研究部」

「きじゅつ研究部?」

「うん。この前、部長さんと会ってね、すごかったんだよぉ。手のひらにハンカチをかけて、魔法の呪文を唱えて、ハンカチをパッと取り払ったら、折り紙で作った鳩が現れてね。しかもそれで終わりじゃないんだよぉ。その鳩はおみくじになっててね、なんとそこに大吉って書いてあって……!」

 

 きじゅつ……? 「きじゅつ」って何だ?

 えりながそう口を挟むスキもなく、心雪ちゃんは目を輝かせて話し続ける。

 そんな心雪ちゃんを眺めているうちに、えりなは気付いた。

 

 心雪ちゃんは、青春してるんだ。

 

 こんなふうに何かに夢中になることを青春っていうんだ。いいなぁ、心雪ちゃん。

 

「でね、それまで私、新学期が憂鬱で仕方なかったんだけど、その時やっと元気になれて……。折り紙をどこに隠してたんだろう、どういう仕組みで取り出したんだろうって気になって、自分でやってみようって思ったんだぁ。その第一段階として、折り紙でこけしを折ってみたってわけさぁ」

「ふむふむ……」

「でも、やっぱり折り紙を出すところはよく分かんなかったけど……」

「わかんない?」

「うん。おばあちゃんに相談しても『わけわかめ』って言われちゃって。手詰まり状態なんだよねぇ……」

 

 心雪ちゃんはそう言って眉をひそめると、「むむむ……」とスガミちゃんを見つめた。

 真剣な目つきだ。「きじゅつ」って言葉の意味を知らないから、えりなには心雪ちゃんの言ってることが半分くらいしかわかんなかったけど――いまの心雪ちゃんの悩み事なら解決できる気がする!

 えりなはドンと胸を張って言った!

 

「気になるなら、その部長さんのとこに行けばいいんじゃないか?」

「えっ?」

「そういう時は一人でごちゃごちゃ考えてないで、走って本人に直接聞きに行けばいいんだよー! そうすれば頭も体もスッキリするぞー!」

「本人に……」

 

 まるで「その発想はなかった」とでも言いたげに心雪ちゃんは目を丸くした。

 だけど心雪ちゃんは、すぐに優しい笑顔に変わって――「そうだねぇ」と笑ってくれたんだ。

 

♨      ♨      ♨

 

 午後の授業が始まった。

 結局、あのあとすぐにチャイムが鳴って、「きじゅつ」って何なのか心雪ちゃんに聞きそびれてしまった。

 えりなが想像するに――たぶん「きじゅつ研究部」っていうのは、心雪ちゃんみたいに器用な人たちが集まって、折り紙で何かを作る部活なんだろう。名前に「器用」の「き」も入ってるしな!

 そして、心雪ちゃんはこれから「きじゅつ研究部」で青春するんだろう。残念ながら、「きじゅつ研究部」は不器用なえりな向きの部活じゃないけど。

 でも、えりなは元気をもらった。えりなも、あんなふうに目を輝かせて熱く語れる部活をきっと見つけられるはずだ!

 

「……にひひ」

 

 えりなは自然とこぼれる笑顔を教科書で隠して、入部届を見る。

 入部届はまだ白紙のまま。だけど、今日こそいい部活が見つかる気がしてきた。

 

「じゃあ、ここを――白浜帆南美」

「はい」

 

 透きとおるような声がして、えりなは帆南美ちゃんの席を見る。

 帆南美ちゃんは音もなく椅子から立ち上がると、静かに古典の教科書を音読し始めた。背筋をぴんと伸ばしたその立ち姿はなんだかきれいで、難しい古文もすらすらと読んでいく帆南美ちゃんは、さすが“お姫様”と呼ばれるだけある。

 だけど、えりなは古文が苦手で――。

 

「ふわあぁぁ……!」

 

 あくびをすると、えりなはいつものように居眠りの準備を始めた。

 授業はよくわかんなくて退屈だし、帆南美ちゃんの声は子守歌みたいだし、それに何より、今日も放課後は体験入部があるし――えりなは体力を温存しておかなきゃ。

 だから、先生――おやすみなさい。

<続く>

著:黒須美由記

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